先のエントリで、病院診療実績の「仕分け」作業について紹介しました(こちら)。ある病院で、ここ数年の疾患別実績を「利益が多く増加中」の患者群(①)と「利益は多いが減少中」の患者群(②)、そして「増加中なのに利益の少ない」患者群(③)と「減少中で利益も少ない」患者群(④)の4類型に仕分けようとしたものです。経営戦略論の発想では、このような4つのグループを「戦略ユニット(事業方針検討単位)」として捉え、儲かる花形の事業単位①をさらに伸ばして拡大し、大黒柱である同②を効率化して先立つモノをひねり出し将来に備え、悩ましい同③の扱い方を革命的に見直して収益化の道を探り、縁あっていらした同④ではあるがこれを適確な他機関に振り向け自らの負担を減らして行こうとします。つまり、単位ごとにそれぞれ事業戦略の方向と発想法を異なるものとして捉え、メリハリある戦略で中長期的な経営発展につなげていこうとする「戦略思想(戦略的プランニング)」なのです。
大学で教える経営戦略論のメインに「事業ポートフォリオマトリクス(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:PPM)」があります。アメリカの世界的に著名な経営コンサルタント会社「ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)」が開発したフレームワークで、企業の製品や事業を「市場成長率×マーケットシェア」という二つの軸で4つの事業タイプを析出し、それぞれに然るべき戦略を明示しようとするものです。私が普段、病院で行っている研修講義では、このBCGの理論フレームの考え方に則りながら日本の医療制度における病院経営の事業環境を考量し、軸の設定や事業単位の名称を病院経営にマッチしたものに一部変更を加えて、新たに作成したマトリクス表を提示しています(以下)。
このマトリクスでは、縦軸に疾患別の「患者数の伸び」(大・小)を設定し、各病院におけるここ数年の診療実績を、増加率が伸びている患者群と伸びていないもの患者群を分けています。BCGのマトリクスは市場全体の成長率を縦軸としていますが、日本の地域医療圏は完全な自由市場ではなく社会政策的観点のもと計画的に構築されているため、各病院が立地する医療圏での「患者数の伸び」を軸として設定しました。また、横軸に疾患別の「診療報酬収入額マイナス基本原価(診察→処方処置→手術→検査診断→リハビリまでの基本的ケアにかかる人件費、薬剤費、機械等経費、外注費など)」(大・小)を設定し、ここ数年の診療実績をDPC制度に照らして見たときの、医業収益率の高い患者群と低い患者群を分けています。この場合の大小(高低)は、各病院の保有機能によって異なります。疾病単体としては低くても、例えば急性期から回復期、さらに療養期から介護サービスに至るまで(前方から後方まで)カバーしている病院グループが、一人の患者をグループ内で連続してケアすることを前提に、「利益額の大きい事業単位」として区分することもできます。同じくBCGは(相対的)マーケットシェアを横軸としていますが、日本の地域医療制度の計画性を踏まえ、より経営業績に直結する「診療報酬の点数」を設定しました。
こうして類型化した4つの「事業方針検討単位」ですが、それぞれのコードネームについても日本の病院経営を考量して一部変更を加えました。事業単位②を「金のなる木」、③を「問題児」とし、ここまでは日本で定着しているBCGのネーミングと同様ですが、他方の①を「看板」、④を「招かれざる客」としています(BCGではそれぞれ「花形」と「負け犬」)。
講義のこの段階で良く聞く医療従事者のご意見が、冒頭のセリフです。「確かに“招かれざる客”かもしれないが、我々には応召義務がある」というものです。病院は公的な機関なので、「利益が少ないという理由で排除することに抵抗がある」という真摯な思いによるものでしょう。そうした場面で私は、いつも次のようにお答えしています。「日常的に意識して“花形”や“金のなる木”を増やし収益力を高めていて初めて、“招かれざる客”も余裕を持って快く対応することができるのです」。
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