「退院間近になって介護保険申請とか、普通ありえないでしょ」
既婚者・子ありの「ママ・ナース」を研修で集め、自宅でカレーライスを作る話をします。冷蔵庫のなかスッカラカン、まずは買い出しにスーパーに行き、とりあえずカレーの材料は一通り揃えた、とする。子ども達はお腹をすかせて待っています。そこで「さて、最初の作業は何ですか?」と質問します。病院ではナース、自宅ではママをしている彼女たちの答えは十中八九、当然のことのように「そりゃ先生、まずお米研いで炊飯器のスイッチをカチャ、に決まってるでしょ」。
「大正解です」と軽く褒め称えた後、私はダメな例として、大学のゼミ夏合宿で大学生がよくやるパターンについて話をします。湖畔や山林のコテージから、男子を中心にクルマに乗って買い出しに行って、女子は合宿所に残ってキッチンの確認。買い出し班が戻ったらテーブルに材料を広げ、男子女子ワイワイがやがや肉を切って、危なっかしい手つきで野菜を切って、キャーキャー言いながら鍋で炒めて、水を入れて煮込んで、「俺、これ好き」だとか何だとかでカレールーを投入し、調理開始から1時間強。合宿所にカレーの良いにおいが立ちこめ、お腹が減ってイイ感じになってきたところで、「あ、ご飯炊くの忘れた」。そこから慌てて米を研いで、炊飯器でご飯ができるまでプラス1時間弱。空腹が我慢できず、夜の飲み会用のポテチで飲み出す男子多数。結局、買い出しからカレーライスにありつけるまで、かかった時間は、買い出し30分+カレー完成1時間強+炊飯1時間弱の、計2時間半。私はそこで、「大学の合宿なら笑って思い出だけど、就職した先の会社でコレやったら、そのうち左遷だよ」。
研修はママ(ナース)の集まりですから、「全く大学生は子どもよねぇ」といった感じなのですが、私はここぞとばかり、「皆さんの日頃のお仕事では、そういうのはゼロ、絶対ありえませんよね?」と問い正します。例えば、大腿骨頸部骨折の患者さんが、手術して、リハビリして、カンファレンス開いてドクターの退院・在宅療養OKが出た後で、ワーカーが自宅の家屋調査に行って、家のトイレや階段のものすごい段差を発見する。「ご家族は、段差とか無い。ゼンゼン大丈夫って言ってたのに!」とか怒ってみても後の祭り。リハビリ目標は再設定、段差解消のリフォームを大工さんに発注したら、見積もりの現場確認アポで1週間とか言ってる。「もっと安い業者あるかも」で複数に相見積もり取ってプラス1週間。設計図と総額固まって発注したと思ったら、今度は下請けの職人が忙しくて予定が立たず、そこから1カ月待ちなんだとか。かと思えば介護保険申請の手続きを忘れていて、言った言わないの騒動むなしく、さらにプラス。プライマリと退院支援のナースの間で責任の擦り合い、リハのOTとMSWのチームワークもなく、気付いてはいたけど、ともに放置。患者に聞いてもラチ開かず、結局何だかんだで、2週間で退院できる患者の在院日数1カ月半。看護部長と事務局長は相当のオカンムリ。ご家族らは何処吹く風で、「長く入院できて良かったわよね-。やっぱり病院は安心だし」とご満悦。ナース曰く、「だってウチ、多職種連携とかダメな病院だから。昔はそんなの良くあったし、似た患者で2カ月入院とかもありましたよ」。
カレーライス作りに戻って、今回のまとめです。「炊飯」の仕事の「順序」を守るだけでの工程全体が効率化され、総時間は短縮できるということ。肉や野菜の仕込みや煮込みの作業は、後半の「炊飯1時間弱」のご飯が炊きあがるまでの間に処理できる。つまり、これらは「炊飯」作業に従属する作業である。このときの「炊飯」作業を「クリティカルタスク(最重点管理作業)」と言い、これをきちんとこなすことで、ゼミ夏合宿の現実の「計2時間半」より約1時間短縮できます。経営学では、この「30分+1時間弱」にシュッと炊飯作業(クリティカルタスク)をメインに最適化した工程を「クリティカルパス(最重点管理工程)」と言います。そうです。皆さんが普段使っている「クリニカルパス」の原型こそ、このクリティカルパスなのです。
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