ある病院で、診療実績を疾病ごとに仕分けてもらった(こちらのエントリ)あと、その理論的な裏付けについて「4つのタイプ」を提示しつつ解説しました(こちら)。でも、経営学的な分析はここからが本番です。さて、研修に出ていた皆さんの仕分け結果を詳しく見てみましょう。
上の図は、それぞれの疾患を「4つのタイプ」に振り分けたものです。赤い字で書かれているものは各タイプにおける「件数の多い疾患」で、前回の仕分けでも提示されています。ここでは他にも、各タイプの「件数の少ない疾患」(青字)と「多くも少なくもない件数の疾患」(黒字)を併記しています。このように仕分けするだけでも、病院の収益を決める要因が明確に見えてくるはずです。
せっかく仕分けて頂いた4タイプですが、早速これを修正する作業に入ります。
第一に、ヨコ軸の仕分け結果を修正する取り組みです。ヨコ軸は「診療報酬-原価」で左右に分けていますが、在院日数削減の取り組みや取りこぼし加算の確保など診療報酬を引き上げていく工夫、また既存スタッフの活用やジェネリック薬の共同購入など原価を引き下げる工夫で、向かって右側の患者(「問題児」「招かれざる客」)を左側の収益ゾーンへと移動させる取り組みが必要です。こうした組織全体での取り組みのほか、患者ごとに設定される「主病名」の選びかたや疾患ごとに用意されているクリニカルパスの見直しなどで、疾患の中には大幅なコスト削減を実現させる道を探り、同様に右側の疾患の一つ一つを左側に寄せていく取り組みが重要です。こうした「収益力の改善余地」について全体と個別で検討し、速やかに実施して、右側の患者をできる限り左側に移動させていくわけです(2つの赤い矢印による「再仕分け」)。つまり、「問題児」はできる限り「看板」へ、「招かれざる客」はできる限り「金のなる木」へと転換させる施策を考える必要がある。これが修正作業の第一です。
第二に、タテ軸の仕分け結果の再評価です。タテ軸はここ数年における患者数の「伸び」で上下に分けています。経営学的には、患者数が伸びて処置件数が多くなっていけば、対応するスタッフの経験値が増えて首尾良く医療処置をこなせるようになり、また同様の処置を大量にこなすことで規模の経済(量産効果)が引き出され、収益性が上昇していく(経験曲線)という前提があります。このとき患者数が伸びていて件数も多い各疾患においては、自院のチーム医療は「経験曲線効果」を発揮できているか否か(現在は発揮できていなくても、工夫次第で発揮できるようになる余地があるか)を判断することが求められます。その一方、患者数の伸びが滞っている「カネのなる木」は手術や処置の機会が減っていく訳ですから経験曲線効果は基本的には見込めないことになりますが、それぞれに対応する専門医療機器の技術革新や、手術等の時期を調整して一度に行ったりする工夫で、患者数が減少する中でも医療スタッフの経験曲線を上昇させていくことが可能な疾患もあります。これらを下から上へと引き上げていく、また逆に、患者数は伸びていても患者の容態は多種多様で経験曲線を引き上げにくい疾患については上から下へと移動させる。つまり、「看板」と「問題児」の上2つと、「金のなる木」と「招かれざる客」の下2つを、経験曲線効果の有無から入れ替えていく必要があるのです(2つの青い矢印による「再仕分け」)。
以上のような左右、上下の移動をもって「4つのタイプ」を確定させ、それぞれにマッチした事業戦略を組み立てていく。病院の経営戦略は、こうして具体策を検討する段階に入っていきます(つづく)。
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