「IPWが上手くいかないので、マーケティングとリーダーシップを教えて下さいませんか?」
私の専門が経営学だと聞くと、このような話を向けてくる病院経営者が結構いらっしゃいます。まさに、国を上げての地域包括ケアシステム構築が求められるなか、IPW(Inter-Professional Work:専門職連携)の生産性引き上げは喫緊の課題です。地域に密着する病院はいずれも、在宅医療に向けた退院支援の推進に熱心ですが、そのためには医師、看護師(プライマリー・退院支援・訪問看護ナース)、療法士(OT・PT・ST)、MSW、ケアマネジャー、介護福祉士など関係「専門職」の「連携」が絶対不可欠となるからです。
「連携!」の掛け声は良いとして、患者ADLの向上、在院日数の短縮、再入院率の削減など実際の生産性データは思うほど芳しくなく、多くの理事長が歯がゆい思いをしています。その理由としては、①患者視点が欠けていて、患者ニーズをしっかり捉えられず、また②専門職同士の相互理解が不十分で、それぞれのモチベーションが活性化されていないため、結果としてIPWチーム医療のシナジー効果(相乗効果)を十分に引き出せない現状がある、と考えられています。それゆえ、①の「患者視点と患者ニーズ」を捉えるために、経営学の「顧客志向マーケティング」を、そして②の「相互理解とモチベーション」を高めるために、同じく経営学の「組織リーダーシップ」を、病院の専門職たちに是非教えてあげて欲しい、とうことなのかと思います。
そんな懇親会などでの立ち話の多くはその場限りのものなので、そうした話の流れでは病院経営者の方々に、とりあえず「自ら考えるヒント」をお伝えすることにしています。それが標題、“communication”の言葉の語源と意味です。
communication(コミュニケーション)の語源と意味は、単なる「対話」ではありません。元々はラテン語の“communicatio(コムニカチオ)”が語源となっていて、その意味は、“share(シェア)”つまり「分かち合うこと」です。また、単語そのものをスペルから分解していくと、接頭辞の“com-(ともに、一緒に)”に、“municipal(自治の仲間=地方自治体の)”の意味を持つスペルが続き、最後は“-cation(-化)”で終わります。これらから考えると、コミュニケーションという言葉には「課業の“シェア”と業務の“共同自治”化」という目的的な意味が込められていると考えられます。現代でいう「対話」を手段としながら「仕事のシェア(分かち合い)と業務の共同自治(自らの責任による自らの処理)に向けて活動するさま」を表しているのです。
マーケティングもリーダーシップもいずれも、経営学の主要科目です。これらの講義研修を新たに企画してしまうと、これまたもっともらしい膨大なコンテンツと学習メニューが提示され、真面目な医療従事者の皆さんはそれらのメニューを日々こなしていくことに傾倒してしまうでしょう。「真面目なスタッフ」にまず提示すべきは学習メニューではなく、本質を表すキーワードだと思います。IPW(専門職連携)が今ひとつと感じた場合は、第一に、業務全体の「仕事を分解」(WBS:詳しくはこちら)して関係専門職に改めて「シェア」し、第二に、各仕事における担当者の「責任を明確化」させて自らチームで「共同管理」する仕組みを作り、そして第三に、その仕組み作りに向け、担当者間での「対話」を継続させる。まずはこれだけ、で現場を見直してみることが肝要です。
0 件のコメント:
コメントを投稿