2017/09/24

院内連携のための「情報流」システム

「物流システムのように、“情報流”システムを整備するということですね」

 「物流が滞る」というのは、どういう状態を指すのでしょうか。包帯やサージカルテープなど衛生材料の物流で考えてみましょう。まず工場で製品が作られ、工場敷地内のメーカー倉庫に一時保管されます。商社や卸業者はそれを買い取ってトラックで引き取りに行き、自社の大きな物流センターに一旦運び、そこで荷分けして各地の営業所に向け分割配送し、病院グループなど大口取引先の場合はそこから直接病院へ、小口の場合はさらに小売業者を通じて、病院の用度係へと納品されていきます。この一連の製品の流れを「物流」と呼び、工場に原材料が届かなかったり、トラックが手配できなかったり、どこかの段階で倉庫がカラになってしまったり(逆に山積みになってパンクしたり)、病院の用度係にストックがなくなったり(逆に病棟の廊下に溢れたり‥)してしまうことを「物流が滞る」と言います。

 滞った物流をスムーズに流すために、企業は対策を立てます。最も簡単な方法は、多めに作って、各段階の倉庫で多めに備蓄しておくことです。でもそれでは倉庫用に広い場所を確保しなければならないので、コストが掛かって経営を圧迫します。衛生材料ならいざ知らず薬となると使用期限があるので、大量備蓄が大量廃棄になるリスクも出てきます。そのため企業は川上の工場に、川中となる卸の営業所の流通動向及び川下の小売店や末端消費者の消費動向をリサーチさせます。その結果をもとに工場は、ただ闇雲に大量生産することを止め、適正量を計画的に調整しながら生産することとし、他方、川下の小売店等は、工場の調査の限界を埋めるべく毎日の消費データを分析して工場にフィードバックしつつ、必要に応じて販促営業を強化したり、別の製品を紹介したりして、物流の最適化を図っているのです。

 病院の退院(在宅)支援プロジェクトなどで運営上の諸課題を聞いた時、良く出てくる話に「病棟やリハビリ(川上部門)の持つ患者情報が、外来や訪看(川下部門)へと流れて行かない」という現場の訴えがあります。外来や訪看のナース、MSWやケアマネジャーにしてみれば、「現場で使える共有情報が意外に少ない」「電カル上で探すのは一苦労」。つまり、物流(物の流れ)ならぬ「情報流(情報の流れ)が滞っている」ようなのです。では、その対策は何か?と聞くと、どの病院も「職種間でコミュニケーションを図り、院内連携を強化する」とのワンパターン回答。互いに話し合って頑張ろうという姿勢はいいのですが、情報の流れの川上から川下までを俯瞰し、「滞り」を調査してシステムとしての根本的改善を図ろう、という発想にならないのがずっと気になっていました。

 企業の対策としてはまず初めに、川上の工場の「ただ闇雲に大量生産する」活動の見直しに着手します。量産効果でコストダウンが図られるため、工場はついつい食べ過ぎがちです。でも胃腸が弱いのに、お得だからといってドカ食いしたら、便秘になったり体調を崩したりするのは当然でしょう。さて、ここで医療従事者の皆さんに、川上となる自院の病棟やリハビリの「情報生産活動」を改めて評価してみて欲しいのです。加算が付くから、電カルがそうなっているから、転院先に求められたからなどなど様々な理由はあると思いますが、極めて膨大な文書情報を後先考えず闇雲に大量生産していませんか?

 そうなんです、物流と同様に「情報流」もそうして滞っていくのです。物流は物を扱うので、量産し過ぎたら山積みになって目に付くし、倉庫がいっぱいになればコストが嵩むから解りやすいのですが、情報はコンピューターの中に入っているので「情報流の滞り」が実は解りにくい。しかしながら目に付かないだけで、多くの病院の情報流は既に滞っているのではないでしょうか。闇雲に大量生産して、工場の倉庫のごとく大量に山積みし、どこからどう触っていいか検討も付かない状況を放置しつつ、川下の営業所や小売店に「お前ら早く取りに来い!」「自分で探して活用しろ!」と言っているようなものかもしれません。工場における物の生産がその後の消費現場の動向分析で決まるように、病院における医療情報の生産はその後の退院支援や在宅医療の動向分析で決まる。そんな「情報流システム」構築の検討が必要になっていると思います。

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