新卒一括採用、年功序列、終身雇用、定年後再雇用。これぞ、日本型雇用慣行の典型コースです。文系理系を問わず大卒正社員のサラリーマンなら、「一生のうち転職経験ゼロ」という人も少なくありません。最近でこそ雇用流動化で転職経験者も増えてきましたが、安定した業界の企業に正規採用されれば、「一生1社」こうしたコースで完全リタイヤまで40~50年、働き続けます。大卒就活生の近年のトレンドは、就「社」じゃなくて就「職」、大手に限らず中堅・中小。彼らに言わせれば、「大企業だと後輩がどんどん入って来るので人材豊富。それゆえリストラや出向があったり、定年後の再雇用がなかったり」するので、「少しぐらい条件が悪くても、自分のやりたい仕事にこだわり会社を選ぶ。中小だと人材は貴重なので大事にしてもらえるし、定年関係なく一生働き続けられる」。有名大企業に就職して合コン三昧!転職してステップアップ!なんて今は昔、あくまでもワークライフバランスが基本、その実現のために都合が良い会社を選ぶスタイルが支持を集めています。
さて、医師のキャリアのパターンは如何に。医師のキャリアの全体像については、全国の民間病院の経営者団体、全日本病院協会が行った大規模アンケート調査(詳細はこちら:全日病PDF)が大変参考になります。この「医師の就業動向調査」(2015)は全国の医師3,915名から回答を得た、まさに直近の大規模調査です。医師のキャリアの全体構造を示した一つのグラフ、インターネットで公開されている報告書PDFの7ページ(全27ページ)「卒後年数別の主業務の勤務施設」を見て下さい。20代半ばの「卒後1年目」から定年前後の「卒後40年目」まで、それぞれの年齢の時に働いていた「勤務施設」を追跡調査したパネルデータ(個人別の回答を時系列に並べたモノ)の集計結果です。
このグラフを見ると医師のキャリアのパターンは、大きな色が三つ分かれていて、多くが「一生3院」となっているようです。大卒サラリーマンのように、最初に就職したところで一生働くような人はごく少数派で、まずキャリア初期に若い人たちの大量病院移動があり、キャリア中期に少しずつ、もう一度その先へと移っていくパターン。その3つも属性がほぼ決まっていて、最初はほとんどが「大学病院」に入職(研修医として働き始め)、キャリア初期に過半数が「公立病院」へと大量移動(大学の医局から派遣され)、その後キャリア中期にかけて五月雨式に「私立病院」へと移っていき(医局から離れ自由に移動し)、卒後20年目のキャリアの丁度真ん中で私立病院勤務が過半数を超えています。つまり医学部卒業後は、「大学病院から公立病院、そして私立病院」という「一生3院」が医師のキャリアの全体像となっています。また、20代後半から30代前半のキャリア初期と中期の間には、大学院に戻るアカデミックなキャリアや、海外勤務や留学などグローバルなチャレンジを選択する医師もいます(グラフ「卒後4年目」から「12年目」辺りまでの、上部が凹んだ部分)。こうしたキャリアはテレビの医療ドラマでは良くある話ですが、とはいえ現実では少数派で30歳前後に数%見られるものの、キャリア中期にかけて徐々に少なくなっていくようです。
この調査結果は、大規模なパネル調査とはいえ、民間病院に勤務する常勤医を対象としたものです。研修医からリタイヤ直前までのキャリア全体を俯瞰する上では非常に有効な調査ですが、もちろん卒業後ずっと大学に残っている医師や開業する医師もいます。それら様々なデータを総動員させ、医師のキャリアデザインについて研究を進めていかなければなりません。
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