2017/11/27

在院日数短縮への「対症療法と原因療法」

「統計学‥従属変数?因果関係?? で、対症療法との違い?って」

 統計学は因果関係を読み解く学問です。「統計学が最強の学問‥」といった本がベストセラーになっていて、経営学においても頻繁に活用されています。代表的なのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」という言い伝えでしょうか。古典学的な解釈よりも俗説のほうが解りやすいのでそっちで説明すると、「風が吹く→ボヤが大火事になる(海山で遭難事故が増える)→多数の死者が出る→葬儀で棺桶が大量に必要になる→棺桶屋の売上が上がる」という一連の流れです。一見して無関係に見える事象同士(大風の風量と棺桶屋の売上)でも、巡り巡っていく因果関係の中にある、ということ。時には、あり得ないこじつけを批判する際に使ったりもします。

 さて、その統計学についてです。このときの「桶屋の売上」を従属変数(あるいは目的変数)、そして「大風の風量」を独立変数(同じく説明変数)と言います。ちなみに「変数」とは、文字通りその都度変わる数字であり、その数字を書き入れる計算式の箱です。解りやすく言うと、風の風量が2立米、3立米と上がって行くに連れて、棺桶屋の売上が2倍、3倍と増えていけば、この両者に因果関係があることになります。つまり、独立変数の風量が変化すれば、従属変数の売上が変化する。あくまでも風が先で売上が後。もっと例えて言うなら、牛乳をたくさん飲むと身長が伸びる、勉強をたくさんすると成績が伸びる‥。このときの牛乳摂取量や勉強時間を「独立変数(説明変数)」、身長や成績を「従属変数(目的変数)」というわけです。

 さぁ、掲題の在院日数についてです。日々、目にしないことはない「平均在院日数」。医療従事者の皆さんにしてみれば、恨めしい数字かもしれません。病床稼働率を上げるために、さらにはその回転率を上げるために、全ての患者の在院日数を短縮しなければならない。しかも、とりあえず他院に送る「爆弾回し」ではなく、在宅復帰を進めなければならない。医師の意向、患者や家族の希望などなどは一先ず置いといて、理事長や事務長などから「ベッドコントロール!在院日数を短縮し、在宅化を促進せよ!」と命令を受けた皆さんは、まず何をするでしょうか。「退院支援Nsを任命して対策に当たらせる」「担当者で集まって話し合い、チームを作り相互に連携して対策に取り組む」「スクリーニングシートを活用して患者情報を収集し、医師をはじめ全ての担当者で共有する」「チームメンバーを院外にも広げ、ケアマネジャーなど外部者との連携を密にして対応する」‥。キーワードは「1に連携、2に連携、3~4で(情報)共有、5に連携」です。
 しかしながら、頑張っている皆さんを前に難癖付けるのは極めて心苦しいのですが、これら全て「対症療法」に終始しているように見えて、常々から色々とうずうずしてしまう今日この頃です。

 そこで、もう一度、統計学の「従属変数と独立変数」に戻ってみましょう。やっぱり必要なのは、対症療法ではなく「原因療法」ではないでしょうか。連携と情報共有で問題に対応するのは重要ですが、そもそも「何で在院日数が減らないのか」「何で在宅療養が伸びないのか」の根っこにある原因は何か。ここをスルーして「連携!共有!」はNGです。さらに、その原因の程度を表す数値はないのか。在院日数を従属変数(つまり先の例えで言うところの身長や成績)とすれば、それと因果関係にある独立変数(同じく牛乳や勉強)が必ずあるはずです。「何が増えると在院日数が伸びる」「何が減ると在宅療養が伸びない」、さらにもっと進めて、その独立変数の数字の動きをモニタリング出来ないのか。風が何立米を超えて吹くと、ボヤは大火事に発展し、多数の死者が出る。それなら、その風は、どういうメカニズムで吹くのか。どんな環境で、強くなるのか。その対策には何をどうすれば良いのか。その対策を施して、住民に安心してもらうには何をどうすれば良いのか‥。とにかく原因を特定し、それを数値化(独立変数と)してモニタリングし、因果関係の向きを捉えてその対策を考え、その先にある問題の「在院日数」の変化を分析する。こんな、従属と独立の双方の変数を追いつつ行う原因療法的な対策こそ、病院経営改革に不可欠な考え方ではないかと思うのです。

 またまた例によって、経営指導先の病院のスタッフの皆さんに、そんな独立変数を「あーだこーだ」考えて頂きました。
 「それならまずは誤嚥性肺炎。最初に何より発熱とCRPの値、次に患者ADLと嚥下評価の摂食状況レベルの数字。これら独立変数?の数字を適当に解釈して安易に食事始めちゃうと喉ゴロゴロ、咽せてゲホゲホ、痰の吸引ゴボゴボとなって、在院日数は確実に伸びる。食事の際の水分量が重要。ゼリーやトロミ剤の濃さ、キザミ食材との組み合わせとか粘度のスケールに落として食事開始のスタートラインを決め、そこからの担当プライマリNsの患者状態チェック回数を独立変数に、そんで従属変数の在院日数との関連を追って行ったら因果関係出る??」
 「誤嚥性肺炎の患者なら退院後、在宅療養になって、決められたクスリ飲まなかったり、指示されたトロミ剤使わなかったりすると、徐々に状態悪化して熱発で救急車呼んで再入院しちゃう。これじゃ在宅療養は全然伸びない。だからこの辺り、独居なら訪問看護のNsやヘルパーさんに残薬数(クスリ摂取率)とかトロミ剤スティック使用数とかチェックしてもらって、それ系のデータを独立変数にずっとモニタリングして、ヤバい!ってなったら介入するってのアリ??、だよねー」
 「そもそもなんだけど、在宅療養時のデイ(サービス)とか介護サービスの充実度みたいなの、あとは予定はしてたけどめんどくさいから結局行ってないとか系の出席率とか、こういうの変数?として追っかけていくと、かなりリスク減るよね。そうそう、透析の患者さんなんかだと、とにかく体重の変化と塩分摂取量だよね。ラーメン食べたりしたの?ダメです!なんて怒っちゃうとウソつくから、何食べたのかとか怒らずフォローして、それらを変数に設定してずっと数値追っかけて、成績上がりましたねーなんて褒めて患者教育すると、在宅療養伸ばせるかもねー」。

 私が帰った後も、Nsの皆さん「結構おもしろいね!」とか相互に言いつつ、こんな議論が延々と(指導終了後もナースステーションで)続いたとのこと。何より何より、良い傾向です。

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