2017/09/18

病院「オーナーシップ」の重要性

「“持分”のある病院は、もう設立できないんですよね」

 「持分」とは出資持分(比率)のことで、株式会社で言う「保有株式」のようなものです。会社を興すとき、出資者は株式を購入するかたちで出資金を出すのですが、その株式の保有比率によって、株主それぞれのオーナーシップ(所有者の役割や権限)が変わってきます。会社の最高意思決定機関は「株主総会」で、社長の選任や事業譲渡・合併の決定など重要事項を、株主が一株一票制の多数決で決めていきます。「一株一票」ですから、発行株式の過半数を保有する「大株主」が一人いれば、その一人の判断で重要事項の全てが決まってしまいます。これぞ「資本の論理」です。

 「持分」は、病院に残っている「資本の論理のようなもの」です。例えば病院設立時に出資者が4人いて、それぞれ25%ずつ出資すれば、その分が各出資者の所有権すなわち「持分」です。病院に多い医療法人社団の場合、出資者は「社員」と呼ばれ(「会社員」を略して言う社員ではなく、団法人の創業メンバー構成を意味する「社員」です)、それらの「社員総会」が会社の「株主総会」に当たる最高意思決定機関となって、病院の経営者たる理事長など理事の選任といった最重要事項を決めています。しかし、株式会社は一株一票ですが、社団である病院は「一人一票」です。一人に一票なので、それなりに民主主義的ではあります(資本主義的な株式会社とは異なります)。ちなみに医療法人財団の場合は、株主や社員に当たる人を「評議員」、株主総会や社員総会に当たる会議を「評議員会」と言います。

 「やっぱり病院は民主的な公的組織だから、株式会社の強欲資本主義みたいなところがなくて良いですね」という意見、医療従事者からちょくちょく聞きますが、そうそう安心できるものではありません。「病院の意思決定機関の仕組みの甘さ(自由度)」が、一人の出資者の行動一つで致命的な「資金ショート」(資金繰りが悪化して皆さんの給与の支払いが遅れたり、倒産しかけたりする状態)に陥ったり、外部の第三者の悪意ある戦略的行動一つで簡単に「乗っ取り」が行われたりするリスクを孕んでいるのです。

 先の例のように、大昔の病院設立時に25%の持分を持つ社員がいたとします。それから数十年経ち、病院が大きくなって病院の土地、建物、設備など総資産が数十億円になったとき、その社員が高齢を理由に引退しようとしたり亡くなったりして本人や関係者が持分(出資分)の払い戻し請求を行えば、その持分比率に応じて病院は「数十億円の25%」を支払わなければなりません。
 また、医療法人の持分のあり方に特別な規制はなく、持分の全部や一部を自由に譲渡することができます。株式会社なら、株式市場があり、証券取引所があり、上場基準(株式を自由に売買できるようになる基準)があり、買収のための公開取引(公開買い付け)など様々な社会制度があり、さらに売買契約、情報開示、独占禁止など様々な法律や規制があります。株式会社の企業買収は簡単にできる作業ではありませんが、医療法人の社員の持分が悪意を持つ者に譲渡され、その者やそのグループが社員総会や評議員会で議決権を行使すれば、病院経営の重要事項は全てそこで決定されてしまうのです。

 あなたは、病院の偉い人をどれだけ知っていますか? 「理事長や、理事となっている院長」は、一緒に働いているのですからよくご存じでしょう。でも、その上に、理事長の選任について議決権を持つ社員、評議員がいます。また、大株主のように大きな出資持分を持つ社員がいます。そしてその傍らに、持分譲渡から議決権を狙う第三者がいるかもしれません。それらの人たちの「オーナーシップ(病院所有者としての役割と責任、そしてビジョン)」を確認しておかなければなりません。
 ちょっと心配になってきた皆さんは一度、内閣府のこちらや厚労省のこちらで「病院のガバナンス(組織統治の仕組み)」を勉強してみて下さい

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