国を挙げて、在宅医療と介護の連携推進が進められています。高齢患者が在宅で医療や介護サービスを受けられるようにするため、地域における連携のあり方をどう構築していくか、多くの関係者が精力的な取り組みを進めてきています。もちろん病院も、地域の重要な「関係機関」であり、在宅療養支援病院ともなれば、急変時の診療や一時的な入院受け入れ対応が求められるようになります。そうした病院は自ら訪問看護ステーションを設置し、ケアマネやMSWに新たな役割を与え、病棟の退院支援ナースと協働させて、地域における在宅医療・介護連携の中核的役割を果たそうとしています。
「在宅医療の充実」のための、病院の課題とは何か。そのための地域連携、相談支援、専門研修、普及啓発、情報共有など具体的な課題が並んでいますが、そのなかで最も重要な課題は何か。その答えは間違いなく最後の「情報共有」、とりわけ「患者についての情報共有」でしょう。何より患者のことが理解できていなければ、連携も支援も研修も方向性と具体策が定まってこないからです。では、情報の具体的な共有項目とは何か。患者の名前、住居環境、病状、意思疎通能力(認知症の程度)、既往歴、収入、ADL、家族構成、対応できるキーパーソン、介護保険の適用状況、利用できる医療資源(訪問医や訪問看護)と介護資源(ケアマネや介護サービス)等々。これらのデータ収集は確かに重要ですが、ごく当たり前のことでもあります。頑張っている皆さんが行う連携なら、既に共有済みでしょう。それどころか、さらに主観的なデータも収集していると思います。患者の意思、気持ち、闘病意欲、合わせてキーパーソンの意欲、能力、関与できる時間などについて、自ら感じたり分析したりしたことを記録し、情報として共有しているはずです。
しかしながら、「そこまで網羅的に情報を共有したのなら在宅化は完璧ですね?」と問いただすと「いやいや未だ未だ全然」と答える。続けて「それなら今後の課題は?」と聞くと「とにかく人手が足りない」で議論終了。そこから先に進めません。とはいえ高齢患者は今後さらに増える、医療財政は今後さらにキツくなるのだから、増員なんて無理。だからこそ、患者情報が重要なら、使える情報、有益な情報をもっともっと、さらにもう一段掘り起こして、活用して共有し、現状を打開して行くしかないのです。
そこで病棟師長、退院支援担当、外来・訪看の責任者らベテランナースを集め、ケアマネやMSW部門の責任者を加え、「もっと掘り下げるべき患者情報は何か?」と問い質(ただ)し続けてみました。絞り出してもらったアイデアの利用可能性を突っ込み返す繰り返しの議論の中で、何とか見えてきた「さらなる情報項目」は次のようなものでした。
まずは、患者の「拒否(固持)の程度」。治療上の指示や専門的なアドバイスを「固持して受け容れない」患者の状態を指標化するアイデアです。在宅医療や介護のあり方を指導しても、聞き流すだけで受け容れず、結局は再入院になってしまう(それを狙って受け容れない?)。こうしたリスクを可視化していく情報です。次に、患者の「病識の程度やIC内容の受けとめ方の変化」。患者が自分の病状を客観的に受けとめ、自分で考えて納得(インフォーム)し、客観的かつ有効な方法を自ら考え情報を収集しようとする姿勢が出てこないと、在宅医療は長続きしない。そうした姿勢変化のサインを見逃さず、ベストなタイミングで介入していくための情報です。そして、患者や家族が自ら自宅で医療処置を行う場合の「手技(技能)の程度」。痰の吸引やインスリン注射など、退院支援の際に担当看護師が丁寧に指導するものの、それがどのレベルのものか、とりわけ退院して帰宅した直後の1週間でどれだけ出来るか、どんなリスクがあるのか把握することが重要です。医療従事者が見守る病院での練習で上手く行っても、在宅時の自分の処置が上手く行くとは限らない。在宅医療は、退院日から始まる最初の1週間が肝腎。在宅医療の滑り出しを適確にサポートするため、患者や家族の対応力の実態を可視化しておく情報が必要です。
「じゃぁ、それらのデータを数値化するなりスケールを考えるなり、患者情報として整備する方法を考えましょう!」と話を向けたら、「先生、何かそういう情報もっとありそうです‥もっと考えさせて下さい!」とのお返事。この他にも、もっともっとありそうです。「共有すべき患者データ」は継続討議となりました。
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