2017/09/12

MSWによるセグメンテーション

「“顔が見える連携”なら、“顔を見に行くアタックリスト”を作って下さい」

 戦略的な地域医療連携のための第一歩こそ、セグメンテーションの実践です(詳しくは、こちら)。セグメンテーションとは、医療で言えば「様々なニーズや特性をもとに、患者や連携先を分類する作業」です。作業の担当者を決めるとすれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)が最右翼でしょう。MSWこそ日々、患者・家族と接し傾聴してニーズを探り、前方後方の病院・施設のMSWと連絡を取り合って連携のあり方を模索している専門職だからです。
 さぁ、病院内のMSWを集め、マーケティング研修の始まりです。その第一時限目が、この「セグメンテーション」です。

 まずは、患者セグメンテーションです。とにかく「分ける」作業なのですが、分けるためには「分ける軸」が必要です。これまでの入院患者リストを手元に、患者さんの年齢、男女、住所、病名などの基礎的属性で分けるところから始めます。研修出席者の皆さんに「どんな属性の患者さんが多いですか?」と聞けばたいてい、「後期高齢者、女性、ご近所、骨折関係(頸部骨折or圧迫骨折)+α(心不全などの複合疾患)」なんて返事が返ってきます。次はちょっと難しくなります。今度は患者さんと家族の「心理的状態や行動パターン」で分けてもらいます。例えば、家族関係、同居か独居か(家族が遠くにお住まい)、認知症の程度、在宅環境(家の中はゴミ屋敷だったり‥)、本人の生活能力(要支援か否か)などです。分類基準は何でも構いません。これまでのケースをもとに、自由に分ける作業を行って頂きます。

 そして、連携先セグメンテーションです。今度は病院の機能(立ち位置)によって少々視点が異なってきます。急性期なら連携先は後方中心、回復期や療養期なら前方と後方の双方となるでしょう。施設を分ける作業なので、そのための分類軸(基本的属性)となると、施設機能、病床数、診療実績(DPCデータ)、所在地あたりでしょうか。同様に「どんな属性の連携先が多くなっていますか?」と聞けば、その病院のタイプ別にパターンが決まってきます。例えば、整形外科・内科とリハビリを主とした小規模回復期病院であれば、「前方、急性期、大規模、骨折」となるでしょう。さらに同じく少々複雑な「心理的契約や連携パターン」による分類も行ってもらいます。この回復期のケースなら、前方病院の看護・リハビリの質(「あそこは褥瘡が多い」「ADLのデータと実態が合わない」)、MSWの質(「反応が悪い」「人が直ぐ辞める」)など、これまでのケースをもとに、自由に分けて頂きます(ここまで来ると出席者は言いたい放題、結構愉しそうです)。

 さて、セグメンテーション研修はいよいよ佳境に入ります。分類してもらった「患者セグメント」「連携先セグメント」のそれぞれをホワイトボードに並べて書いて、全員でブレーンストーミング(自由な発想での企画会議)をして頂きます。「1つのセグメントで十分な医業収益を確保できる規模があるのはどれか?」「最も競合の少ないセグメントはどれか?」「最も効率化が可能なセグメントはどれか?(それはどんな方法か?)」「自院の医師やスタッフは、どのセグメントを得意としているのか(逆に、苦手としているのか)?」「どのセグメントに特化すれば(を強化すれば)、地域自治体や連携先施設に喜ばれるか?」「理事長以下、病院スタッフ全員が共有する理念を最も良く体現できるのは、どのセグメントか?」などなど何でもOK、事例を含めて喧々諤々の議論をしてもらいます。すると、セグメントやセグメントの組み合わせに優先順位が見えてくるので、それぞれのセグメントに入っている病院等を上からリスト化すると、MSWが訪問して「顔を見に行く」べきアタックリストが浮かび上がってくるのです。

 最後に私から、「研修お疲れさまでした。では、そのアタックリストを持って、理事長、院長、看護部長、関連する診療科部長(例えばリハビリ部長)、事務長のところに行き、議論の内容を説明して、ご意見をもらってきて下さい」。これで第一時限目終了です。

0 件のコメント:

コメントを投稿