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2017/09/25

「在宅医療の充実」と共有すべき患者データ

「当院は、在宅療養支援病院として届け出ていますけど‥」

 国を挙げて、在宅医療と介護の連携推進が進められています。高齢患者が在宅で医療や介護サービスを受けられるようにするため、地域における連携のあり方をどう構築していくか、多くの関係者が精力的な取り組みを進めてきています。もちろん病院も、地域の重要な「関係機関」であり、在宅療養支援病院ともなれば、急変時の診療や一時的な入院受け入れ対応が求められるようになります。そうした病院は自ら訪問看護ステーションを設置し、ケアマネやMSWに新たな役割を与え、病棟の退院支援ナースと協働させて、地域における在宅医療・介護連携の中核的役割を果たそうとしています。

 「在宅医療の充実」のための、病院の課題とは何か。そのための地域連携、相談支援、専門研修、普及啓発、情報共有など具体的な課題が並んでいますが、そのなかで最も重要な課題は何か。その答えは間違いなく最後の「情報共有」、とりわけ「患者についての情報共有」でしょう。何より患者のことが理解できていなければ、連携も支援も研修も方向性と具体策が定まってこないからです。では、情報の具体的な共有項目とは何か。患者の名前、住居環境、病状、意思疎通能力(認知症の程度)、既往歴、収入、ADL、家族構成、対応できるキーパーソン、介護保険の適用状況、利用できる医療資源(訪問医や訪問看護)と介護資源(ケアマネや介護サービス)等々。これらのデータ収集は確かに重要ですが、ごく当たり前のことでもあります。頑張っている皆さんが行う連携なら、既に共有済みでしょう。それどころか、さらに主観的なデータも収集していると思います。患者の意思、気持ち、闘病意欲、合わせてキーパーソンの意欲、能力、関与できる時間などについて、自ら感じたり分析したりしたことを記録し、情報として共有しているはずです。

 しかしながら、「そこまで網羅的に情報を共有したのなら在宅化は完璧ですね?」と問いただすと「いやいや未だ未だ全然」と答える。続けて「それなら今後の課題は?」と聞くと「とにかく人手が足りない」で議論終了。そこから先に進めません。とはいえ高齢患者は今後さらに増える、医療財政は今後さらにキツくなるのだから、増員なんて無理。だからこそ、患者情報が重要なら、使える情報、有益な情報をもっともっと、さらにもう一段掘り起こして、活用して共有し、現状を打開して行くしかないのです。
 そこで病棟師長、退院支援担当、外来・訪看の責任者らベテランナースを集め、ケアマネやMSW部門の責任者を加え、「もっと掘り下げるべき患者情報は何か?」と問い質(ただ)し続けてみました。絞り出してもらったアイデアの利用可能性を突っ込み返す繰り返しの議論の中で、何とか見えてきた「さらなる情報項目」は次のようなものでした。

 まずは、患者の「拒否(固持)の程度」。治療上の指示や専門的なアドバイスを「固持して受け容れない」患者の状態を指標化するアイデアです。在宅医療や介護のあり方を指導しても、聞き流すだけで受け容れず、結局は再入院になってしまう(それを狙って受け容れない?)。こうしたリスクを可視化していく情報です。次に、患者の「病識の程度やIC内容の受けとめ方の変化」。患者が自分の病状を客観的に受けとめ、自分で考えて納得(インフォーム)し、客観的かつ有効な方法を自ら考え情報を収集しようとする姿勢が出てこないと、在宅医療は長続きしない。そうした姿勢変化のサインを見逃さず、ベストなタイミングで介入していくための情報です。そして、患者や家族が自ら自宅で医療処置を行う場合の「手技(技能)の程度」。痰の吸引やインスリン注射など、退院支援の際に担当看護師が丁寧に指導するものの、それがどのレベルのものか、とりわけ退院して帰宅した直後の1週間でどれだけ出来るか、どんなリスクがあるのか把握することが重要です。医療従事者が見守る病院での練習で上手く行っても、在宅時の自分の処置が上手く行くとは限らない。在宅医療は、退院日から始まる最初の1週間が肝腎。在宅医療の滑り出しを適確にサポートするため、患者や家族の対応力の実態を可視化しておく情報が必要です。

 「じゃぁ、それらのデータを数値化するなりスケールを考えるなり、患者情報として整備する方法を考えましょう!」と話を向けたら、「先生、何かそういう情報もっとありそうです‥もっと考えさせて下さい!」とのお返事。この他にも、もっともっとありそうです。「共有すべき患者データ」は継続討議となりました。

2017/09/17

健診センター事業化の経営課題

「健診センターは儲かるし、潜在患者確保にもイイんですけどね」

 病院にとって、健診は儲る事業です。そこは経営学的に、最も重要なポイントです。厚労省が民間シンクタンクに委託して行った2012年の調査報告書(こちらの48・49ページ)を見ても、それは明らかです。病院の医療外事業のうち儲かるのはクリニック、健診センター、治験施設の3つですが、収入「額」は健診センターよりクリニックがやや高いものの、クリニックは諸々コストも多くなり「益」が出にくくなっています。また、収益「率」で見れば圧倒的に治験施設ですが、こちらはそもそも市場が限られていて額が少ない。もう経営的に見ると、収益の額も多くて率も高い健診センターをやらない手はありません。その一方、残念ながら医療外事業として儲から「ない」のは、同報告書の通り保育所、訪看ステーション、居宅介護支援の3つです(だから経営的に「やるな」というわけではありません。いずれも非常に重要な事業です)。

 これだけ儲かるのに、なぜ病院は健診事業に力を入れられないのか。理由は大きく2つあると考えています。
 1つは場所と動線設計の問題です。健診は、様々な業務が一直線に並ぶラインを形成するので、工場のように広い場所で、各工程間の待ち時間が最小化するように処理ラインを設計するのが理想です。いつもの病院で、通常通り複数の外来部門がたくさんの患者を受け入れている間を縫い、健診利用者をライン動線に乗せながら随時送っていくような芸当は、自動車メーカーの最先端工場並みの管理技術を要します。1つの生産ラインで様々な車種を多様な仕様オプションごとに作り分ける、フレキシブル生産の技術です。そのレベルのライン管理技術を持つ病院は極めて少ないので、結局そこかしこで待ち時間が多くなって効率が低下し、利用者の不満が増大してしまうのです。もう1つは、人材とりわけ医師の配置の問題です。医学を修めたドクターの多くはとにかく治療がしたいのであって、健診の問診のような業務には興味を示しません(つまり医師が非協力的)。その気持ち、よく解ります。大学教授の私が「講義も研究もやらなくてよろしい。あなたは毎日、入学試験の面接だけやってなさい」と言われるようなものですから。

 周知の通り企業は、労働安全衛生法(労働安全衛生規則)のもと、雇い入れた従業員の健康診断を行う義務を負っています。とはいえ企業も従業員も大企業から中小企業まで様々で、これらからの受注チャンネルが色々あります。大企業やその健康保険組合は自社従業員のニーズを捉え、それに適合した健診プランや予約システムを提示する健診センターと契約します。また、インターネット予約システムなどをオープン化して病院や健診センターにつなぐ代行会社もたくさんあります。そして、法の規則とはいえ余りおカネを欠けられない中小・零細企業とその従業員向けに、国が国庫からコストを補助する「協会けんぽ」(全国健康保険協会)の仕組みがあります。

 さらには、それぞれを経由する企業の健診ニーズも異なっています。大企業などでは女性の雇用や管理職への登用の機会を拡大させる動きが顕著になっていますが、そうなればこれまでの男性向けのメニューを改編して行かなければなりません。「乳がん・子宮がん健診の同日利用」や「男女別ライン動線の確保(検査着姿を男性に、とりわけ同僚の男性社員には絶対見られたくない)」など、女性向けの体制整備が必要です。一方、中小企業はどこも人手不足が慢性化しているので、「とにかく早くしてほしい。待ち時間があって長引くと(会社で待っている上司が)イライラしはじめる」と訴える総務担当者が増えています。こうした様々な企業の声に耳を傾け、儲かる事業がさらに儲かるように取り組んでいかなければなりません。

2017/09/12

MSWによるセグメンテーション

「“顔が見える連携”なら、“顔を見に行くアタックリスト”を作って下さい」

 戦略的な地域医療連携のための第一歩こそ、セグメンテーションの実践です(詳しくは、こちら)。セグメンテーションとは、医療で言えば「様々なニーズや特性をもとに、患者や連携先を分類する作業」です。作業の担当者を決めるとすれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)が最右翼でしょう。MSWこそ日々、患者・家族と接し傾聴してニーズを探り、前方後方の病院・施設のMSWと連絡を取り合って連携のあり方を模索している専門職だからです。
 さぁ、病院内のMSWを集め、マーケティング研修の始まりです。その第一時限目が、この「セグメンテーション」です。

 まずは、患者セグメンテーションです。とにかく「分ける」作業なのですが、分けるためには「分ける軸」が必要です。これまでの入院患者リストを手元に、患者さんの年齢、男女、住所、病名などの基礎的属性で分けるところから始めます。研修出席者の皆さんに「どんな属性の患者さんが多いですか?」と聞けばたいてい、「後期高齢者、女性、ご近所、骨折関係(頸部骨折or圧迫骨折)+α(心不全などの複合疾患)」なんて返事が返ってきます。次はちょっと難しくなります。今度は患者さんと家族の「心理的状態や行動パターン」で分けてもらいます。例えば、家族関係、同居か独居か(家族が遠くにお住まい)、認知症の程度、在宅環境(家の中はゴミ屋敷だったり‥)、本人の生活能力(要支援か否か)などです。分類基準は何でも構いません。これまでのケースをもとに、自由に分ける作業を行って頂きます。

 そして、連携先セグメンテーションです。今度は病院の機能(立ち位置)によって少々視点が異なってきます。急性期なら連携先は後方中心、回復期や療養期なら前方と後方の双方となるでしょう。施設を分ける作業なので、そのための分類軸(基本的属性)となると、施設機能、病床数、診療実績(DPCデータ)、所在地あたりでしょうか。同様に「どんな属性の連携先が多くなっていますか?」と聞けば、その病院のタイプ別にパターンが決まってきます。例えば、整形外科・内科とリハビリを主とした小規模回復期病院であれば、「前方、急性期、大規模、骨折」となるでしょう。さらに同じく少々複雑な「心理的契約や連携パターン」による分類も行ってもらいます。この回復期のケースなら、前方病院の看護・リハビリの質(「あそこは褥瘡が多い」「ADLのデータと実態が合わない」)、MSWの質(「反応が悪い」「人が直ぐ辞める」)など、これまでのケースをもとに、自由に分けて頂きます(ここまで来ると出席者は言いたい放題、結構愉しそうです)。

 さて、セグメンテーション研修はいよいよ佳境に入ります。分類してもらった「患者セグメント」「連携先セグメント」のそれぞれをホワイトボードに並べて書いて、全員でブレーンストーミング(自由な発想での企画会議)をして頂きます。「1つのセグメントで十分な医業収益を確保できる規模があるのはどれか?」「最も競合の少ないセグメントはどれか?」「最も効率化が可能なセグメントはどれか?(それはどんな方法か?)」「自院の医師やスタッフは、どのセグメントを得意としているのか(逆に、苦手としているのか)?」「どのセグメントに特化すれば(を強化すれば)、地域自治体や連携先施設に喜ばれるか?」「理事長以下、病院スタッフ全員が共有する理念を最も良く体現できるのは、どのセグメントか?」などなど何でもOK、事例を含めて喧々諤々の議論をしてもらいます。すると、セグメントやセグメントの組み合わせに優先順位が見えてくるので、それぞれのセグメントに入っている病院等を上からリスト化すると、MSWが訪問して「顔を見に行く」べきアタックリストが浮かび上がってくるのです。

 最後に私から、「研修お疲れさまでした。では、そのアタックリストを持って、理事長、院長、看護部長、関連する診療科部長(例えばリハビリ部長)、事務長のところに行き、議論の内容を説明して、ご意見をもらってきて下さい」。これで第一時限目終了です。

地域医療連携の「目的と手段」

「地域医療連携の重要性は判っていますが、でもどうすれば‥」

 余裕ある最新施設に最高のスタッフを多数揃え、医療圏の患者を全て受け入れて、その全てに最適かつきめ細かな医療を施す。それが可能なら、医療機関としての社会責任をしっかりと果たし、地域に胸を張ることができるでしょう。しかしながら現実問題として、それは理想に過ぎません。施設面もスタッフ面も、余裕のある病院はごく稀です。医療資源は現時点でも相当限られていて、今後はもっともっと厳しくなります。理想の地域医療を現実化させようとすれば、それは経営側が膨大なコスト支出を覚悟するか、現場の労働力に多大な負荷をかけるか、のいずれかの選択になってしまいます。

 医療者には応召義務があります(医師法19条)。たとえ深夜でも、休診日と設定した曜日であっても、急患があれば診療しなければなりません。その一方、現代の地域医療では、機能の分化、分担・連携と適正な配置(ポジショニング)がなされています。夜間に救急を受ける機能や集中的に高度な医療を提供する機能(ショートポジション)、中長期にわたって回復・療養を支援する機能や在宅復帰後の在宅医療を支援する機能(ロングポジション)という二つのポジションが、それぞれ分化するとともに融合しています。その他にも診療科など、得意分野別の分化、分担があります。これら高度に分化・分担された地域医療のシステムが高度に連携し、地域全体で応召義務を果たしているという解釈があって初めて、個別レベルで「受け入れを拒む」ことが可能となるのでしょう。

 以上の環境を踏まえ、各医療施設運営の「効率」を求めつつ、患者が求める医療「効果」の最大化を図る方法こそ、皆さんがた医療従事者が常日頃から重ね重ね仰る「地域医療連携」です。とはいえ現状はどうでしょうか。はっきり申し上げれば、「言うは易く行うは難し」にあるのが現状でしょう。効率的かつ効果的な連携は遅々として進まず、相変わらず各経営のコスト負担と各現場の労働負荷に頼り切っているのが実態です。「受け入れを拒」めば「たらい回し」とまで言われます。では、なぜ進まないのでしょうか。私は、「地域医療連携」はあくまでも目標・目的であって方法・手段ではない、医療者の皆さんはそこが整理できていないのではないか、と考えています。もっと言えば後者の「手段・方法」のアイデア不足、連携のために何をするか、の「何」が未だ未だ足りないのです。

 「手段・方法」として現在行われているのは、大きく「地域連携パスの整備」と「顔が見える連携(地域レベルでの会議開催)」の二つでしょう。非常に堅実で、網羅的な取り組みだと思います。皆さん各自の職場での激務をこなした上で地域の会議に出席しているのですから、本当に頭の下がる思いです(不真面目な私には真似できません)。しかしながら敢えて言わせて頂ければ、そこには「戦略性」がない。経営学的に格好良く言えば、「戦略的マーケティング」がないのです。
 この流れで考えられる定石的な「手段・手法」は、マーケティング活動の第一歩「セグメンテーション」だと思います。英語の直訳だと「分割、分裂」、経営学(マーケティング論)の定義だと「不特定多数の人や組織を同じ特性やニーズを持つ固まり(セグメント)に集めて分け、それぞれに特化する対応をとって、自らの内部効率性と外部との競争力を高めること」です(こちらにつづく)。

2017/09/09

自ら行う地域医療マーケティング

「凄い! まるで経営コンサルタントみたいですね」

 コンビニであれクリニックであれ、新たに出店(開業)する場合は、予定あるいは検討している地域の基本情報を分析します。とりわけ、その地域の「人口」です。人口の多いところに出店(開業)すれば、たくさんの来客(患者)が見込めるはずです。大手コンビニチェーンなどには「(出店調査のための)地域マーケット分析」を専門に行う部署があって、エリア内の人口や気候など基本データのほか、学校やホテルなど人が集まる施設の立地、スーパーや酒屋など競合店の立地、駅の乗降者数や道路の交通量、地域イベントの年間スケジュールなどを綿密に分析して、出店先を決めています。

 こうした「出店マーケティング」は今でこそ当たり前ですが、由緒ある病院が開業した数十年前は、こんな分析調査はありませんでした。もちろん、その関係の専門部署などもっていません(医療事務だけで精一杯なのに、ましてやマーケティング部なんて‥)。しかしながら、数十年も経てば、周囲の環境も大きく変わってきます。例えば、新しい駅ができた、大規模商業開発があった、大きなマンションができた、あるいは逆に商業施設が撤退したなどなど、地域の環境は変化しています。こうした時、多くの病院は、外部のコンサルタントに頼ってしまいます。クリニックの新規出店の際も同様でしょう。「医療が専門なのだから、マーケティングなど専門外の仕事は外部に任せたほうが良い」。ある意味、それも真理です。

 とはいえ私は、病院の皆さんが「自ら、地域マーケティング分析」を行うよう勧め、積極的に指導しています。理由は、「自分らの働く地域のことは自分らが一番知っている」(経営コンサルタントはみな優秀ですが、その地域に住んで働いているケースは極まれです)こと、そして「情報化が発達して、昔に比べ分析が簡単になった」(インターネットにつながったパソコンがあればOK)からです。

 さて、私が住んでいる東京都世田谷区で、それをやってみました。Google検索で「世田谷区_人口_町丁別」と検索すると、「世田谷区の町丁別人口」という世田谷区役所のホームページがヒットします。そこをクリックして区の統計情報のページに入り、そのなかで「年齢別人口」→「平成29年(2017年)」→「北沢地域(町丁別)」と進んでいくと、「○○何丁目」ごとの年齢別人口が全て入ったエクセルファイルが出てきます(こちらです)。そのファイルには、「自分の住む地域(丁目別)で、ことし何人の子どもが生まれたか(ゼロ歳の数)、75歳以上の高齢者が何人いるか」などが全て出ています。役所のデータですから、もちろん無料です。毎年度、データが蓄積されています。それらを分析することで、病院周辺の人口動態が克明に分析できるのです。エクセルをちょっと使ったことがあれば、誰でもできることです。ただし、東京などの大都市や地方の中核都市はこの情報公開レベルにありますが、過疎地域の自治体だとここまで出ていないかもしれません(公開はPDFファイルのみ、など)。でも、そうした自治体では「人の付き合い」が逆に密なので、ぜひ役場の人に電話して直接問い合わせてみて下さい。

 さらに「おススメ」したい方法があります。それは、こうしたマーケティングを事務職員ではなく、OTと高齢患者さん達の作業療法としてやってみてもらうこと。部屋に地域の白地図(役所で売っています)を大きく広げ、みんなで「塗り絵」作業をしてみて下さい。「その一角は高齢人口が多いから赤に塗ってね!」(OT)、「あぁ、ここは特養があるから多いんだね」(パートさん)、「あのね、この土地は昔、沼地でね、私ね、小さい頃ここで遊んでね‥」(患者さん)などなど、ワイワイがやがややりながら、その土地の歴史と今を知る。これこそ究極の「エリアマーケティング」だと思います。

2017/09/02

地域包括ケアの「包括」に相応しい英語は何か?

「別に何でも良いんですけど、結局どれなんですか?」
 
 いま医療従事者にとって「地域包括ケアシステム」は、非常に重要な概念となっています。にもかかわらず病院の皆さんから良く聞くのは、大多数の本音だと「実は真面目に考えたことないんです。結局、地域包括ケアって何なんでしょうか?」で、他方、MSWやケアマネジャーなど高齢患者相手に日々ガチンコで取り組んでいる方々に言わせれば「システムを考案された先生方には大変失礼ですが、実際そんなモノ(システム)は存在しないと思うんです!」というものです。結局これら両極の二つを合わせて、「地域包括ケアって何?」がこの手の議論の、永遠のメインテーマとなっています。

 専門外とは言え、いちおう教授なので、蘊蓄を「たれ」なければならない機会があったりします。そこで良く持ち出すのが、理解のポイントになるであろう「包括」の意味です。日本語で辞書引いても良くわからないので、それなら英単語!となるのですが、専門の学者や理事長先生が良く仰るのは、「地域包括の“包括”は、“comprehensive(全部を含む)”ではなく、“integrated(統合された)”である」というもの。しかしながら、病院研修の私の教え子さんたちは「余計イミフメイになった‥」という顔をするので、私は理解優先でいい加減に、「ラーメンのトッピング全部のせ」的なのが“comprehensive”で、「子どものブロックおもちゃの合体ロボ」的なのが“integrated”‥なんて説明をしています。

 地域包括ケアシステムは、体系だった全体を持つ“integratedケアシステム”です。言わば合体「トランスフォーマー」的なロボットの頭、胴体、手足の各パーツが一つ一つ小さな「レゴ」ブロックなどでキレイにカチッと仕上がっていて、胴体の上に頭のパーツ、両脇に腕のパーツなど、それぞれが然るべきところにガチャン、シャキンと組み上げられていくと、「元々はそれぞれ小さなブロックだったのに、あらまぁ不思議、格好いい立派なロボットになって敵を倒す‥」となる。その勇姿漲る「合体ロボット」こそがわれわれが求める「ケアシステム」で、それには厚生労働省から国民に向けて明確なイメージが提示されており、それが「“住まい”を中心に、医療と介護と生活支援・介護予防が三方からケアしあう」あのポンチ絵(厚生労働省「地域包括ケア研究会報告書」2013:こちらの政府HP)となるわけです。つまり、私流の合体ロボ解説で言えば、胴体が住まい、右手が医療、左手が介護、両足が支援と予防(頭になるのは患者・家族か?ケアマネか、SWか?)で、「2025年の団塊世代後期高齢者化時代に備えるフォーメーションこそ、この地域包括ケアだ!」というのを「永遠のメインテーマ」に対する回答としています。

 さらにもう一つ、現実的なありようを表現する英単語があるのではないかと思っています。“comprehensive(全部のせラーメン)”と“integrated(一つになった合体ロボ)”の中間にあるであろう、発展途上にある地域ケアの現実を含ませた単語がそれです。英語嫌いが言うのも何なのですが、“integrated”の手前には、国際援助ビジネス絡みで近年ちらほら耳にする“inclusive(人・モノ・考えを何とか広く含んだ)”な段階があり、多くの現場の実態はほとんどこのレベルにある、というのが私のイメージです。“inclusive”だと「持続的で意味があるなら、それもアリ」的な鷹揚なニュアンスが加わってきます。合体ロボの例で言えば、パーツ自体は現場なりに思い思いそれぞれ勝手にカッチリ固めてきてはいるのですが、頭でっかちだったり無かったり、機能が被っていたり互いに干渉していたり、組み上げ方が逆さまだったり中途半場だったり、何かがスッポリ抜け落ちていたり‥と、とても“integrated”と言えるような格好いい代物では決してない。でも何とか元気に動いている。日本では廃車同然のクルマが部品適当に組んで、屋根なんか吹っ飛んだままアフリカで現役バリバリ。途上国で、援助支援をしながら営利も求めるBOP(ベース・オブ・ジ・エコノミック・ピラミッド:こちらの政府HP)ビジネスのような、そんな、“inclusive”なケアシステムです。

 地域医療と介護の現場には、非営利から営利までごちゃ混ぜのまま、元々そうした主体的な各パーツが諸々既に活動していて、たまたま偶然パーツ同士がパチンとはまり、完全無欠に仕上がった(integrated)ロボットとまではいかないけれど、敵から何とか身を守り、地域を支えてきている仕組みがある。こうした途上国的雑然(inclusive)を醸し出す、かなり不格好な“inclusiveケアシステム”を、元々あったケア主体の固まりの機能と地力を活かしつつ、環境と制度に合わせてどうシェイプ、リメイクしていくか。さらに、どう効率化を図っていくか。このプロセスが「地域包括ケアシステムの構築」である、と講義で説明している現在です(結局解りにくくてすみません)。

2017/08/30

マーケティングとは「営業を不要にする活動」である

「営業職みたいなワーカーさん、よくいらっしゃいます(私はキライです)」

 「地域包括ケアシステム」の構築が求められる昨今、医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割が注目されています。在院日数の削減、退院支援の強化、医療連携の拡充、在宅療養の支援など地域包括ケアに向けた病院の施策の多くに、MSWが大きく関わっているからです。病院で言ういわゆる“ワーカーさん”は「福祉系三大国家資格(社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士)の一つ」で、医療、福祉、教育、行政の各機関・施設で働いています。「社会福祉の大学等を卒業し、社会福祉士資格を持ち、病院等に雇用された」専門スタッフ、これがMSWです。

 MSWは社会福祉士なので、当然ながら社会福祉の教育訓練を受けています。それを象徴するキーワードこそ「傾聴と受容」です。この対人援助技術の訓練を受けて病院に就職したMSWは、援助を必要とする患者・家族と真摯に向き合って、じっくりとニーズを聴き出し(傾聴)、相手の立場を十分に理解して(受容)、様々な制度を活用しつつ適確かつきめ細かな援助策を提供する。これが本職であり天職だと考えているのに、悲しいかな現実はさにあらず、雇用先の病院からは全く異なった指揮命令が下される。「もっと入院していたい」と訴える患者・家族に「退院支援」(「在院日数」を削減するため)、「この病院が好き」と言ってくれる患者・家族に「転院支援」(そのための「医療連携」)などなど。学校で習ったことと就職先でやらされていることが大きく異なる。こうした不満を抱えるMSWは、結構多いのではないかと思います。

 その一方、病院経営者からの指揮命令に忠実なMSWがいます。傾聴なんて二の次、患者・家族の訴えをワザとスルーして機械的に退院勧奨、合理性もあるのでしょうが「次の病院・施設はココ!」とかなり強引な転院手続き、日々そうした「振り先となる“取引先”」に菓子折持って営業活動、出先では次いでを見つけて新規取引先の開拓営業、退院支援の人数と在院日数を壁に大きく張り紙して部下にハッパをかけ、理事長や事務長の顔が見えれば営業風に低姿勢の手揉みで近づき、ここぞとばかりに「傾聴」、そしてしっかりと自分の「営業成績」をアピール。理事長らは「地域包括ケアが実現できてるね」とご満悦。それどころか“普通のワーカーさん”に「あれを見習いなさい」と言って行く。その「あれ」の行為は、とても社会福祉士と言えるようなものではないのに。

 当エントリのタイトルは『もしドラ(もしも高校野球のマネージャー‥)』でも有名なアメリカの経営学者、ピーター・ドラッカー博士の言葉です。ドラッカーには営業マーケティングの分野でも様々な業績があり、その中で冒頭のような「遺言」を残しています。
 「買って!買って!なんて忙しく営業・販売活動なんかしなくても、顧客が自然に買っていく、取引先が向こうから近づいてくる、そうさせるために内部の組織をどう変えるべきなのか? それを組織全体で考えるのがマーケティング活動である」。MSWは、こうした病院マーケティング活動の中心的役割を期待されている(営業活動そのものではない)のだと考えています。

2017/08/25

「療養上の世話又は診療の補助」の構造と目的

「ナースの仕事ってのは基本、“療養上の世話”なんですよ」

 退院支援の問題からナースの仕事に関するネガティブな話になったとき、あるドクターがボソッと口にした言葉です。保健師助産師看護師法第5条には、ナース(看護師)とは「大臣の免許を受けて(中略)療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」とあります。「大臣の免許」とは国の許可、「業とする者」は、仕事で労役を提供して賃金や報酬を受け取る者を意味します。さらに言えば、その診療報酬制度上の業務として、①病状の観察、②病状の報告、③身体の清拭など療養上の世話、④診察の介補、⑤与薬など治療の介助及び処置、⑥検温など検査の介助、⑦患者家族に対する療養上の指導、が挙げられています。冒頭のセリフをドクター目線で考えるなら、条文業務の後者「診療(の補助)」は医師の仕事であって看護師の役割はあくまで「その補助」だから、医師の自分がその都度適確に指示を出せばいい。しかし、前者の「療養上の世話」については、ナースが自ら主体的に取り組んでもらわないと困る(のに、診療上のことに口を挟んできてばかりで、自分がまずしなければならないことを疎かにしている)という日頃の思いかと思います。こう言ってしまうと、ナース側からは強い反論がでるかもしれません。

 このとき私が連想したことは、企業営業部のセールスプロモーション担当が担う定型業務「ルーチン・サービス」と「テクニカル・サポート」についてです。前者「ルーチン・サービス」とは、顧客のペースに合わせるべく顧客の日常(ルーチン)に入り込み、サービスをしながら顧客ニーズを色々と探って、自社の取引を拡大させるための業務を言います。例えば、私の大学の教え子に大手ビールメーカーの営業職になった子がいますが、彼女は日々取引先の酒屋さんに伺っては店の掃除を買って出て、その酒屋の地域で花火大会があるとなれば出店を出すのにボランティアをやり、店主との人間関係を堅く構築して、自らの仕事につなげています。そして、後者「テクニカル・サポート」とは、詳しい商品説明や専門的な業務改善についてアドバイスする業務です。同じく彼女はその酒屋店主から「地域向けの新たな販売促進戦略を考えたい」という依頼を受け、エリアマーケティングやシステムエンジニアリングに関する専門知識・ノウハウを本社の専門家に教わったりしながら、店主に向けては店主のレベルに合わせて分かりやすく、販促戦略のイロハをアドバイスしています。この二つの業務が相互にしっかり回せて初めて、その酒屋から自社ビールの発注がたくさん舞い込む(イコール自分の業績が上がる)ようになるという流れです。

 私は、病院のナースもビール会社の教え子も、やっている業務は基本的に同じ構造と目的を有していると考えています。患者あるいは顧客のルーチンをしっかり把握しニーズを確認して初めて、テクニカル(専門的)なケアを効果的に提供することができる。近年、病院において最大の課題となっている退院支援、とりわけ様々な生活不安から入院が長期化している社会的入院など)高齢患者及び家族の退院支援のためには、病棟で日常業務につくナースが「ルーチン・サービス」にどれだけ取り組むか、そこから情報・ニーズをどれだけ引き出して分析し「テクニカル・サポート」につなげるか、にかかっています。しかし、「療養上の世話」となると、少々ニュアンスが異なってくる。このギャップが様々な問題の本質だな、と考え始めています。