「これから、技能実習とかで外国人労働者が増えるんですよね?」
医療・介護分野への外国人労働力受け入れが、ゆっくりと進んでいます。島国の日本にとって、外国人労働者問題は基本的に「制度論」です。ヨーロッパのように地続きだと、難民等の問題はその流入を止められない「現実論」(来ちゃうんだから仕方ない)なのですが、日本の場合、自然的国境として「海」があるので、空港や港での入国管理が可能だし、入国後も外国人登録などによる在留管理が徹底できます。かつてのバブル時代は、観光ビザで来日して働いたり(資格外就労)、ビザ期限を超えて働いたり(オーバーステイ)、風俗や飲食など地下経済ビジネスで働くケースの取り締まりが徹底できず、いわゆる「不法就労外国人」(“不法”という表現は適切ではないという意見がありますが、解りやすさを第一に使用しました)がたくさん滞在していました。ピークは1990年代半ばで、30万人弱の不法滞在者がおり、そのほとんどが就労していたとみられています。
「制度論」というのは、島国日本の外国人労働者数は制度を厳格に運用すれば減り、制度を新たに設定すれば増える、ということを意味しています。ちなみに2017年現在の不法滞在者数は約6.5万人、入国管理局(「ニュウカン」)による入国管理「制度」に基づく取り締まり強化を背景に、ピークから大きく減少しました。その一方、新たに外国人労働者を受け入れる制度が設けられれば、その「制度」に基づき増加します。医療従事者の皆さんなら誰もが知る「EPA(経済連携協定)外国人看護師・社会福祉士」は、この「制度」そのものと言えます。医療関係のこうした「制度」ができる分だけ、医療分野の外国人労働者は増加していくという構造です。
実際に、制度の変更とデータの動きを追って整理してみましょう。21世紀に入り、日本とフィリピンやタイなど東南アジア諸国とのFTA(自由貿易協定)やEPA交渉が盛んに行われていました。その過程で2004年、日本とフィリピンとの間でEPA交渉が決着し、2006年をメドにフィリピン人看護師を受け入れる合意がなされました。当時、日本のフィリピン人労働者と言えば、多くが「じゃぱゆきさん」(日本の飲食・風俗産業で働く女性労働者)でした。もちろん日本の入管法は単純労働者の受け入れを認めていませんが、フィリピンにおいてダンサーの資格を持つ「芸能の専門職」が「興行ビザ」(プロスポーツ選手と同様)で入国するケースが横行していました。つまり、ダンスを演じる目的で入国した者が飲食店等で給仕をする「資格外活動」です。しかも、その舞台は風俗産業など地下経済で、そうした流入は日本政府としても看過できませんし、フィリピン政府としても自国民の出稼ぎ先が他国(日本)の地下経済に集中することは人権保護の観点からも看過できません。他方、フィリピン人女性の出稼ぎは「ダンサーという名目の単純労働者」が主流なのでは決してなく、欧米や中東地域などに「看護師という専門職」を大量に送り出し、高い評価を得てきていました。両政府の間には、日比間の国際労働移動の流れを適正化したいという意識が明確にあったと考えています。その後の展開は、法務省の入国管理統計(こちら)みれば明らかな通り、フィリピン人女性の不法滞在者(多くは飲食・風俗産業の不法就労者)数は「看護師受け入れのメドとした2006年」から入管局の摘発が厳しくなり、急激に減少しています。とはいえ実際の日比EPA発効は、日本からのゴミ輸入問題等でフィリピン上院での審議が滞り、当初のメドからほぼ3年遅れた2009年12月となりました。不法就労者が摘発で激減する一方、看護師の送り出しが遅れたことで、フィリピンのGNPの約1割を占める「海外出稼ぎ者からの母国送金」が減少したのも、これら両国間の制度の進捗による「制度論」の影響と言ってよいでしょう。
そして2017年、日本では技能実習制度の改正が行われ、新たに「介護」分野の受け入れが開始されることになりました。特養の介護業務や病院の看護助手分野などでの受け入れが想定されています。現在、その「制度」設計の仕組み作りが行われていますが、「制度」の目的はあくまでもインターン実習なので、誰がどのように教育し、成果をどう評価するかがポイントになります。とはいえ、この制度においても現実的な意味は他にあり、医療介護ともに報酬のマイナス改定が続くなか、収益減とコスト増に喘ぐ施設・病院経営者への「代替経営支援制度がコレ」であることは、当事者の方々も否定し得ないでしょう。ある意味これも、立派な「制度論」なのだと思います。
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