2017/09/11

アウトプットから「スループット」へ

「スループットとか、初めて聞きました」

 いま私はパソコンでワープロを立ち上げ、この原稿を書いています。文章が出来上がったら、パソコン画面で印刷指示を入力(インプット)しプリンターから出力(アウトプット)するのですが、昔は「“印刷”をポチっ!」から「プリンターから紙がガぁー」までソコソコ時間が掛かっていました。マウスでポチっとすると、パソコンが静かに「スコスコ」言った後、プリンターが騒々しく「ウィンウィン、ギーガチャ、ギーガチャ」と10秒弱唸り続け、その後しばしの沈黙があってから「(紙が)ガぁー」、でした。それが最近は、明らかに機械の性能が向上しています。いまは、ポチっから1~2秒でガぁ-です。

 このパソコンとプリンターの変化は、経営学で言うところの「スループットの向上」です。スループット(through-put)とは「処理力」を意味し、IT産業や製造業では「一定時間当たりの処理量・処理スピード」と定義されます。マウスを「ポチ、ポチ、ポチ、ポチ」と連打して、一定の時間内で「ガーーーー」と何種類の印刷が出せるか、という能力です。文字通り、「through(通して)put(置く)」能力のことです。毎日の何気ない文書の印刷も、コンピュータのCPU(中央処理装置)の能力が向上して、様々な情報インプットによるたくさんの指示もサクサクこなせるようになり、プリンター内部でもローラーを組み合わせた紙送り技術が向上し、給紙から転写そして排紙のシステムが効率化されました。インプット(印刷指示)とアウトプット(印刷)の間にある概念が、このスループット(処理速度)なのです。

 インプットからアウトプットまでの処理スピードと処理量がスループットなので、文章そのものの入力もインプットだとすると、モノ書きとしての私のスループットは、「キーボードを叩き始めた時点から原稿の出稿までの時間」、そして「時間当たり何編の原稿を書き、編集者に入稿できるか」という執筆能力を表す尺度となります。アイデアが思いつかず、キーボードの上で両手の動きが止まりウンウン唸っている私は、さながらスループットが低い一昔前のプリンターです。さらに、私が持っていたプリンター自体も反応が悪く印刷時間が長いのですから、スループット的には最悪な組み合わせとなるのでしょう。

 実は、病院に勤める医療従事者の皆さんは日々、この「スループット」に向き合っています。理事長や看護部長が毎日のように叫ぶ、「診療計画書はその日に出せ!」「シームレスな(滞りなく流れるような)チーム医療を!」「ベッドは稼働していて当然!」「ベッド1台当たりの患者回転率を引き上げよ!」「退院支援を強化せよ!」「平均在院日数は可能な限り短く!」などのお小言は全て、経営学で言う「スループットを引き上げろ」を意味する指揮命令です。「救急は断るな!」「MSWは患者を取りに行け!」というインプットや、「受け入れ特養を探せ!」「訪看や小規模多機能を使って在宅化を推進!」などのアウトプット戦略も重要ですが、その間にある肝腎のスループットが滞ったままでは、病院経営内部の本質的な構造改革は何時まで経っても成し得ないのです。

 日本企業の製造現場は、全社的なスループットの引き上げを目指し、各担当部門の一人一人が話し合い、互いに連携しつつ、涙ぐましいほどの「小さな小さな工夫」を積み重ね続けています。生産計画を立て、計画書を共有し、毎回のように見直し、それに合わせて生産ラインを組み、全体のスピードを考え、生産しながら計測し、ちょっとしたボトルネック(流れの滞留)も見逃さず、必要に応じてラインを組み直し、各部門が数秒ずつ短縮させ、工場のライン全体で数分短縮できたら大成功です。さながらオリンピックで銀メダルに輝いた、男子陸上400mリレーのバトンパス技術のようです。
 少なくとも製造業では、「計画をいくつか標準化(パスを整備)」「顔が見える連携が必要」「互いの仕事内容を理解すべき」「リスペクトし信頼を育む」なんてレベルではお話になりません。

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