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2017/11/27

在院日数短縮への「対症療法と原因療法」

「統計学‥従属変数?因果関係?? で、対症療法との違い?って」

 統計学は因果関係を読み解く学問です。「統計学が最強の学問‥」といった本がベストセラーになっていて、経営学においても頻繁に活用されています。代表的なのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」という言い伝えでしょうか。古典学的な解釈よりも俗説のほうが解りやすいのでそっちで説明すると、「風が吹く→ボヤが大火事になる(海山で遭難事故が増える)→多数の死者が出る→葬儀で棺桶が大量に必要になる→棺桶屋の売上が上がる」という一連の流れです。一見して無関係に見える事象同士(大風の風量と棺桶屋の売上)でも、巡り巡っていく因果関係の中にある、ということ。時には、あり得ないこじつけを批判する際に使ったりもします。

 さて、その統計学についてです。このときの「桶屋の売上」を従属変数(あるいは目的変数)、そして「大風の風量」を独立変数(同じく説明変数)と言います。ちなみに「変数」とは、文字通りその都度変わる数字であり、その数字を書き入れる計算式の箱です。解りやすく言うと、風の風量が2立米、3立米と上がって行くに連れて、棺桶屋の売上が2倍、3倍と増えていけば、この両者に因果関係があることになります。つまり、独立変数の風量が変化すれば、従属変数の売上が変化する。あくまでも風が先で売上が後。もっと例えて言うなら、牛乳をたくさん飲むと身長が伸びる、勉強をたくさんすると成績が伸びる‥。このときの牛乳摂取量や勉強時間を「独立変数(説明変数)」、身長や成績を「従属変数(目的変数)」というわけです。

 さぁ、掲題の在院日数についてです。日々、目にしないことはない「平均在院日数」。医療従事者の皆さんにしてみれば、恨めしい数字かもしれません。病床稼働率を上げるために、さらにはその回転率を上げるために、全ての患者の在院日数を短縮しなければならない。しかも、とりあえず他院に送る「爆弾回し」ではなく、在宅復帰を進めなければならない。医師の意向、患者や家族の希望などなどは一先ず置いといて、理事長や事務長などから「ベッドコントロール!在院日数を短縮し、在宅化を促進せよ!」と命令を受けた皆さんは、まず何をするでしょうか。「退院支援Nsを任命して対策に当たらせる」「担当者で集まって話し合い、チームを作り相互に連携して対策に取り組む」「スクリーニングシートを活用して患者情報を収集し、医師をはじめ全ての担当者で共有する」「チームメンバーを院外にも広げ、ケアマネジャーなど外部者との連携を密にして対応する」‥。キーワードは「1に連携、2に連携、3~4で(情報)共有、5に連携」です。
 しかしながら、頑張っている皆さんを前に難癖付けるのは極めて心苦しいのですが、これら全て「対症療法」に終始しているように見えて、常々から色々とうずうずしてしまう今日この頃です。

 そこで、もう一度、統計学の「従属変数と独立変数」に戻ってみましょう。やっぱり必要なのは、対症療法ではなく「原因療法」ではないでしょうか。連携と情報共有で問題に対応するのは重要ですが、そもそも「何で在院日数が減らないのか」「何で在宅療養が伸びないのか」の根っこにある原因は何か。ここをスルーして「連携!共有!」はNGです。さらに、その原因の程度を表す数値はないのか。在院日数を従属変数(つまり先の例えで言うところの身長や成績)とすれば、それと因果関係にある独立変数(同じく牛乳や勉強)が必ずあるはずです。「何が増えると在院日数が伸びる」「何が減ると在宅療養が伸びない」、さらにもっと進めて、その独立変数の数字の動きをモニタリング出来ないのか。風が何立米を超えて吹くと、ボヤは大火事に発展し、多数の死者が出る。それなら、その風は、どういうメカニズムで吹くのか。どんな環境で、強くなるのか。その対策には何をどうすれば良いのか。その対策を施して、住民に安心してもらうには何をどうすれば良いのか‥。とにかく原因を特定し、それを数値化(独立変数と)してモニタリングし、因果関係の向きを捉えてその対策を考え、その先にある問題の「在院日数」の変化を分析する。こんな、従属と独立の双方の変数を追いつつ行う原因療法的な対策こそ、病院経営改革に不可欠な考え方ではないかと思うのです。

 またまた例によって、経営指導先の病院のスタッフの皆さんに、そんな独立変数を「あーだこーだ」考えて頂きました。
 「それならまずは誤嚥性肺炎。最初に何より発熱とCRPの値、次に患者ADLと嚥下評価の摂食状況レベルの数字。これら独立変数?の数字を適当に解釈して安易に食事始めちゃうと喉ゴロゴロ、咽せてゲホゲホ、痰の吸引ゴボゴボとなって、在院日数は確実に伸びる。食事の際の水分量が重要。ゼリーやトロミ剤の濃さ、キザミ食材との組み合わせとか粘度のスケールに落として食事開始のスタートラインを決め、そこからの担当プライマリNsの患者状態チェック回数を独立変数に、そんで従属変数の在院日数との関連を追って行ったら因果関係出る??」
 「誤嚥性肺炎の患者なら退院後、在宅療養になって、決められたクスリ飲まなかったり、指示されたトロミ剤使わなかったりすると、徐々に状態悪化して熱発で救急車呼んで再入院しちゃう。これじゃ在宅療養は全然伸びない。だからこの辺り、独居なら訪問看護のNsやヘルパーさんに残薬数(クスリ摂取率)とかトロミ剤スティック使用数とかチェックしてもらって、それ系のデータを独立変数にずっとモニタリングして、ヤバい!ってなったら介入するってのアリ??、だよねー」
 「そもそもなんだけど、在宅療養時のデイ(サービス)とか介護サービスの充実度みたいなの、あとは予定はしてたけどめんどくさいから結局行ってないとか系の出席率とか、こういうの変数?として追っかけていくと、かなりリスク減るよね。そうそう、透析の患者さんなんかだと、とにかく体重の変化と塩分摂取量だよね。ラーメン食べたりしたの?ダメです!なんて怒っちゃうとウソつくから、何食べたのかとか怒らずフォローして、それらを変数に設定してずっと数値追っかけて、成績上がりましたねーなんて褒めて患者教育すると、在宅療養伸ばせるかもねー」。

 私が帰った後も、Nsの皆さん「結構おもしろいね!」とか相互に言いつつ、こんな議論が延々と(指導終了後もナースステーションで)続いたとのこと。何より何より、良い傾向です。

2017/11/02

クリニカルパスとクリティカルパスは「似て非なるもの」

「クリカルもクリティカルも、同じものだって教わりました」

 この「パス」は英語の“Path”で「バイパス手術」のパス、「通り道」のことです。「通行証」などを意味する“Pass”ではありません。つまり医療で言うパス(Path)は、通り道すなわち「経路、ルート」を意味します。したがってクリカルパスのそのまま直訳は「臨床の経路」です。皆さんが普段使っているパスには、投薬治療や検査や食事開始などのスケジュールが並び、入院診療の「経路、ルート」が明示されているので、これこそ文字通りの「クリカルパス」です。一方、クリティカルパスの直訳は「最も重要な経路」です。一番大事な、精力を一番注がなければならないルートのみが「クリティカル」なのであって、そのパスにさほど重要でないものが混ざっていてはいけません。真っ直ぐな医療従事者の「パスに記載された活動は全て重要。医療に重要でないものなど一切存在しません!(だからこれはクリティカルパスです!)」という言い分も有り得ると思いますが、少なくとも経営学が組織や活動の効率化を目指す実践的な学問であるとすれば、「現場タスクの優先順位も付けられないようでは、経営なんて土台無理でしょ!」。こうなると医学と経営学は喧嘩別れです。

 先のエントリ(こちら)で、誤嚥性肺炎にかかる入院治療の一連の活動タスクをチーム医療の協働ネットワークとして作図し、パスのモデルを提示しました。指導先の病院のスタッフの皆さんに「あーだこーだ」と臨床現場の活動の流れを振り返ってもらって、理想的な順序を考え、さらにそれぞれに要する標準時間を例示して頂きました。こうして出来上がったのが、この病院の「誤嚥性肺炎アローダイアグラム基本モデル」です(以下図)。ちなみに「アローダイアグラム」とは、通常のパスで言うところの、治療の順序が並んだ表のセル(一つ一つの欄)を矢印(アロー)で表現した作図(ダイアグラム)のことで、経営学のプロジェクトマネジメント論では「PERT(パート)図」として必ず勉強する専門知識でもあります。

 図に従って、この病院の誤嚥性肺炎入院治療のパス(経路)をおさらいしてみましょう。図に沢山あるマル印の中には、診療活動の節目となる内容が記入されています(先のエントリの「イベント」)。まずは「入院①」。ここから治療が始まり、投薬で「解熱③」を目指します。これに要する標準時間が7日ということなので、①→③の矢印(アロー)の上に(7)と記入します。同時に入院から直ぐ、患者や家族の現状に関する情報収集やアセスメントが始まり、その担当看護師などが「情報②」を目指します。この①→②に要する時間が3日。よって、①→②のアロー上に(3)。さらに、患者の解熱を受けて嚥下評価が始まり、これに2日。同じく③→④のアロー上には、(2)と記入します。

 こうして嚥下「評価④」が固まると、ここからは医療チームが4つに分かれ、各担当者の活動がそれぞれ同時に動き出します。退院先の目安を情報チームと共有し(「出先⑤」へは情報共有するだけなので作業時間なし。作業時間がない場合は点線矢印で示して、時間は(0)と記入)、キザミ食やトロミ食など介護時の「食事⑥」と「喀痰⑦」の見極めはそれぞれ3日で行えるが、家族の意向や施設など退院先(出先)の受け入れ能力の見極めや指導は少々時間が掛かり、退院「調整⑧」までの④→⑧は4日。最後は、喀痰と食事と(退院)調整の進捗を互いに情報共有して足並みを揃え(⑥~⑧のタイミングを揃える)、めでたく「退院⑨」へ。各ルートからは、それぞれ1日ずつ。最後の⑨のマルの上にある(14)という数字は、以上の標準時間を全部足し上げた入院期間の計14日を表しています。もちろん、全てのケースが14日で収まるわけではなく、最終的に退院が伸びたら伸びたで「どのアローが伸びてしまったのか?」について後ほど振り返りをしなければなりません。これこそが「バリアンス」分析の中心となり、それへの個別具体的な対策が各アロー(活動)における今後のタスク設計の変更点となっていく。アローが伸びるバリアンスは、①→③の治療経路以外にもたくさん存在します。治療プロトコル(パス)のバリアンスばかり分析しても、在院日数は縮まらないのです。

 この図では、太い矢印で「クリティカルパス(Critical Path)」が描かれています。これは、この「経路、ルート」に遅れが出てしまうと致命的(クリティカル)に入院が伸びる、ことを意味しています。例えば、①→③→④→⑧のルートは標準時間7+2+4の計13日ですが、「入院①」から分かれる情報収集のための別ルート(①→②→⑤→⑧)は3+1+1の計5日で済み、早く終えてもどうせ治療から解熱・嚥下評価を経るルートの終了を待たなければならないわけですから、こちらは時間的に余裕がある(これを「フロート」と呼びます。関連エントリはこちらこちら)。つまり「在院日数を短縮化する」という病院経営上逃れられない宿命的課題に対して、①→②→⑤→⑧のルートは「クリティカル」ではない。同様に、「評価④」から分かれる3つの活動ルート(情報共有だけの④→[点線]⑤を除く)については、4+1の計5日かかる④→⑧→⑨が絶対に遅れてはならない「クリティカルなパス(経路)」なのであって、3+1の計4日で済む④→⑥→⑨と④→⑦→⑨の2つのルートはそれぞれ1日分だけ余裕がある。すなわち、この2つの活動ルートも退院支援として重要なものであることは認めるが、最重要経営課題である「在院日数短縮」を念頭に置くなら、それらは「クリティカル」な経路ではない。

 冒頭のやりとりに戻ってまとめると、クリカルパスという「臨床の経路」の中には、クリティカルな経路とクリティカルでない経路の2つがあるのです。「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」(日本代表サッカーTV中継時における某テレビ局の名セリフ)ではありませんが、「絶対に遅れてはならない経路が、クリカルパスにはある」。「そのルートに遅れが全体の遅れにつながる」経路もしくはルート、それこそが「クリティカルパス」(このモデル図では①→③→④→⑧→⑨の活動ルート)なのであって、これを「最重点管理工程(“Critical Path”の日本語訳)」と位置づけ、作業順序を練って有能な人材を配置し、常時遅れを監視し、遅れたら(バリアンス時)しっかり振り返って対策を練る‥、という体制がとられるわけです。

2017/10/30

「フロート消費」で伸びる在院日数

「明日まで主治医不在だから、とりあえずこの仕事はストップですね‥」

 【空想】あなたは駆け出しの女優です。とある映画制作の脇役をゲットし、クランクイン(撮影開始)したところです。ちょうど、あるワンシーンの撮影を終え、次のシーン撮影は主役とのツーショットで、その俳優待ち。その俳優は今、別シーンの撮影をしています。現場のちょっとしたトラブルで、かなり時間が押している模様。そんな中あなたは、撮影現場の隣に設置された楽屋のテントで、気心知れた俳優仲間と談笑しながら出番待ちです。きょうの撮影後の予定もあるにはありますが、この撮影現場は山奥だし、急いだところでどうしようもない。次の予定の関係者には、主役俳優と映画監督のせいにして連絡しとけば良いから気が楽。降って湧いたようなゆったり時間で、束の間のリラックスを楽しんでいます。

 【もう一つ空想】あなたは映画プロデューサーで、とある映画の制作委員会を立ち上げ、無事クランクインにこぎ着けたところです。映画公開日程は既に決まっていて一年後。予算を組み、キャスティングを決めて、大道具や小道具の発注も済ませ、順調に撮影‥するところが、この長雨(2017年夏)。この一ヶ月の間ずっと雨で撮影中断。最初の数日は「ここのところ超人的に忙しかったから、この雨は良い休息。恵みの雨かな?」なんて思っていたものの、一週間二週間と撮影雨天順延が続き、だんだんシャレにならなくなってきた。実は計画当初、クラックアップまで一ヶ月ほどの余裕時間を組み込んでいました。映画には細々としたトラブルがつきものだから。でも、それを夏の長雨で一気に使い果たしてしまった。かなり焦っています。

 プロジェクトマネジメントにおいて、プロジェクトを進める上での「余裕時間」を「フロート(FLOAT:直訳は浮くモノ、浮き輪ですが、米の俗語で“時間的余裕”を意味します)」と呼びます。フロートには二種類あり、「一連の作業の全体に悪影響を与えない、次の作業に入る前の、直前の余裕時間」を「フリーフロート(自由な余裕時間)」、「一連の作業全体を通しての余裕時間で、先に誰かが使い切ってしまうと、後の者がキツくなってしまうもの」を「トータルフロート(全体の余裕時間)」と言います。上述の空想事例で言うと、主演俳優待ちをしている脇役女優が楽屋でゆったりしている余裕の時間が「フリーフロート」、長雨が続き余裕を持たせていた撮影日程がだんだんキツくなって困っているプロデューサーの消えてしまった余裕の時間が「トータルフロート」となります。

 【現実】に戻って、あなたは病棟のプライマリ看護師です。打ち合わせ、会議、合間に処置。手術、面談、合間に書類作り。まさに毎日、目まぐるしい程の忙しさ。こんな感じでマジにガチで働いてたら、普通に倒れてしまいます。だからこそ、日々の仕事の合間の「フリーフロート」は貴重な時間。【空想】の「現場入りが遅れている主演俳優」のような、「外来が終わらず会議に遅れたドクター」「仕事か何かで面談に遅れた家族」「熱が下がらす手術が遅れている患者」等々のお陰で、合間合間に生まれる「フリーフロート」の時間はしっかりと消化したい。て言うか、遅れたのは私のせいじゃないし‥。「空いた時間を見つけたら、仕事を探してこなしてしまおう」「今日できることは、明日に持ち越さないように」とか、普通に綺麗事でしょ?
 チーム医療の全員がそこかしこに持っている「フリーフロート」の使い方を、どのように管理するか(例えば、こちらのエントリ)。「フロート消費」の個別管理が行き届いていないと、早く終われるものも早く終わらない、つまり【現実】の課題の在院日数はなかなか短くならない訳です。

 【もう一つ現実】に戻って、あなたは病棟の退院支援看護師です。地域の高齢化で、毎年着実に増えていく肺炎患者。内科医がパスを作って治療を計画的に進めようと努力してはいるものの、一週間の抗菌薬投与でそろそろ良くなっているはずの患者の喉が、相変わらずゴロゴロ、ゴロゴロ‥。週末予定の嚥下評価は、担当医師が医局派遣で不在になるため週明けへ後ろ倒し。他にも色々「手続き進めているはずだった介護保険が、ケアマネが捕まらなくて‥」「家屋評価に行ってみたら、実はトイレの前にもの凄い段差があって‥」「夜間の吸引も可能な施設だったんだけど、看護師さん辞めたみたいで‥」。事務長が収益状況から14日後退院を主張していたところ、看護師長が現場実態から「余裕みて21日」としてくれたのに、その「プラス7日のトータルフロート」を最初の一週間で使い切ってしまった‥。
 入退院スケジュールの全体プロセスは、チーム医療の全員が見渡せるパスに可視化し、「トータルフロート」を提示しつつ、どの段階でどの程度消化してしまったかを共有する(例えば、こちらのエントリ)。「フロート消費」の全体管理が行き届いていないと、同じく【現実】の課題の在院日数は、どんどん伸びて行ってしまうのです。

2017/10/29

「ゴール設定」で伸びる在院日数

「この病院は病人を前にして、入院直後から退院の話するんですか!」

 発熱して、介護施設などから急患に搬送されてきた高齢患者への対応を思い浮かべてみて下さい。主治医を決めて諸検査を行い、誤嚥性肺炎と診断し入院を担当者に指示、抗菌薬投与の治療パスに乗せ、チームを組んで全体スケジュールを共有します。診療報酬制度の制約などから考えて、入院期間は14日。とりあえずの「ゴール設定」、つまり退院予定日は14日後です。検査スケジュールは、解熱とCRP数値の確認と判断が一週間(7日)後。そこから嚥下評価が始まり食事開始で、この間2~3日。これでもう10日を消化、予定の14日まであと4日。その残り4日で、嚥下評価の結果をもとにキザミ食にするのかトロミ食にするのか食事介助のあり方を検討し、喀痰の状態から吸引処置のレベルを見定め、搬送元に戻った時の対応について指示しなければならない。限られた4日ではありますが、看護師とST(言語聴覚士)のプロフェッショナルなチームワークがあれば何とかこなせるのではないかと思います。

 しかしながら、退院(日)調整が大問題です。これには「もの言う相手」が存在するからです。しかも、意思と判断が定まらないケースがほとんど。まずは、患者と家族の意思。家に帰りたいのか、これまで居た施設に戻りたいのか、施設とはいえ退院後は違う施設に替わりたいのか、など。そして、受け入れ側の判断も様々。施設の職員から、ハイレベルの介護食(キザミ食やトロミ食)には対応できない(設備も前例もない)、夜間の喀痰吸引には対応できない(看護師がいない)、在宅の家族からは、エレベーターがない(建物が古い)、独居だから無理(介護者がいない)、など色々と問題が提示されてきます。これらの指導や諸調整(退院調整)を、上述の「限られた4日」で対応するのは非常に難しい。患者が認知症、離れて暮らす家族で仕事が忙しくつかまらない(電話してもつながらない、メールにも返事がない)、介護保険の申請をしないと経済的に無理(とはいえ保険の申請・適用には時間がかかる)、(診療所などの)主治医がいない、などなど背景は様々です。これ全てが良くある話なのですから、たとえプロの退院支援NsでもMSWでも、難しいものは難しい。

 それだから、MSWなど退院支援担当者は、なるべく早い時期から患者対応に介入しようとします。早い担当者なら入院直後。患者・家族との支援面談、施設や自宅に関する情報収集、ケースごとのスクリーニング、情報共有シートの作成、アセスメントシートの作成、担当者ミーティングの実施、などなど、退院調整業務てんこ盛りです。患者や家族も色々聴かれて煩わしい。とはいえこちらも、情報収集した後それぞれ個別に対応しなければならないのですから、後ろには引けません。やらないと「設定したゴール(14日で退院)」に辿り着けない。それゆえ急いで支援面談をセッティングしようと動く。

 ここで出るのが冒頭の、家族などからの「怒りのお言葉」です。親を施設に入れ、離れて住んでいた家族が、救急で運ばれたと知らせを受け、ビックリして病院に駆けつけた。久しぶりに見た親は、発熱でグッタリしている。先月会いに行った時は元気だったのに‥。こんな状態なのに、見るからに苦しそうで治療が必要な病人なのに、「この病院は、入院直後から退院の話するんですか!」

 患者の家族が一般の人なら、「誤嚥性」という病名は初めて聞くものでしょう。もちろん意味など分からない。「DPCだから14日で退院させる必要がある」なんて報酬制度など知るはずもない。しかしながら医療従事者は、報酬制度の通り、事務長などが口酸っぱく言う通り、14日後退院をゴールに設定する。この認識のズレを放置したまま、患者・家族と病院間の信頼関係なんて構築できるはずもない。こうして患者と家族の気持ちは不安と不満で固められ、退院への対応を頑なに拒むようになる。苦しむ親の治療のためにも、さらに病院のケシカラン連中を懲らしめてやるためにも、「意地でも入院を継続してやる!」と意固地になる。こうして平均在院日数は、グングンと伸びていきます。

 私は、この「ゴール設定」自体が問題なのではないか、と考えています。ゴールとは、活動の全てが終わることを意味します。若い健常者の骨折入院などとは異なり、後期高齢者の終末期を伺う患者に、実はゴールは存在しない。つまり、治療が終了するのではなく、治療は「最期」の看取りまで続いて行く。患者や家族は「患者の60代ぐらいの元気な姿」に戻れることを期待して入院治療のゴールをイメージするのでしょうが、多くの現実は、そうはならない。

 とりわけ後期高齢者の誤嚥性肺炎などのケースに必要な設定概念は、ゴールではなく「マイルストーン(節目)となるリレーポイント(中継点)」だと思います。つまり、健康な従前の状態に戻ることは残念ながら有り得ず、患者の治療は「一進“二”退」「三“温”四“寒”」で長く続いて行くのです。だから、入院直後に行う支援面談では、そうした「高齢者治療の現実」と必要な情報を伝え、「最期」までしっかり責任を持って伴走することを約束し、「最期」つまり真のゴールを出来るだけ先送りさせようと前向きに患者と家族のモチベーションを上げていく。そのこれから長いプロセス上での中継点、言わば足がかりの最初の一つが「ここで言う14日目」であり、患者には「その節目」で一旦退院して頂き、高齢化で同様の患者が溢れる地域医療のために、地域の急性期として必要なベッドを空けて準備しておく。入院直後の支援面談では、こうした長期ビジョンを患者と家族に理解して頂かなければならない。それでいて、けっして暗くなることなく、皆で前を向く‥。

 「あの‥診療報酬制度というのがありまして、厚労省が入院14日過ぎたら病院の収入を下げるって決めてるんで、だからその日が退院日なんです(看護師の私個人はあなたを入院継続させてあげたいと思ってますけど、そう決めたのは政府。文句があるなら厚労省へ)」なんて患者に言って退院を迫るとか、絶対に御法度。「この病院は金儲けしか考えてない!」と憤られるだけだと思います。

2017/10/13

「リソース管理」のツールとノウハウ

「仕事って、デキる人に集中しちゃうもんなんですよね‥」

 「経営資源(マネジメント・リソース)」と聞いて、何が思い浮かんでくるでしょうか? 例えば、建設業の大型建機、製造業の工作機械などがそれに当たります。「それがないと仕事が進まない」ような、会社の資源です。大型建機は建設現場の監督同士で取り合いになるし、メインの工作機械にトラブルがあったりすると生産量がガクッと落ちてしまいます。それゆえ建機をどう遣り繰りするか、どんな機械を設備投資し保守するかといった「リソース管理」は、いずれでも最重要のマネジメント項目となっています。では皆さんが勤める病院、医療の経営資源とは何でしょうか? 言うまでもなく、それは「人的資源(ヒューマン・リソース)」でしょう。医療従事者がいないと、キュアもケアも進まないからです。つまり、医療の「リソース管理」=「人材の稼働状況の管理」となるのです。

 労働関係法を遵守しつつ看護師の出勤シフトを組むことなどは、リソース管理の第一歩です。しかしこれは、出勤と法令遵守の現況を管理する仕組みに過ぎません。管理はさらに、その稼働状況を把握しながら、オーバーロード(過負荷)のリスクを抑えつつ、チームの生産性を引き上げていく枠組みへと発展させなければなりません。つまり管理職は、部下という人的資源の「リソース管理」をどのように行うか、という役割を持っていることになります。

 リソース管理には欠かせない概念があります。①アポイントメント(会議や手術、家族面談など、相手と時間に合わせなければならない課業)、②パーソナルタスク(日常の処置や資料作成、電話連絡・メール送信など、自分の都合でできる課業)、③フロート(談話室での喫煙など、余裕時間)の3つです。「リソース管理」とは、各人材における上記①②③の組み合わせを把握して負荷の集中や偏りを廃し、部分の生産性向上が図れるよう支援し、各人のタスクの優先順位についてチーム全体の視点で変更を加えていく協働の進捗管理を言います。ある部下の1日にアポイントが詰まっていたり、フロートが放置されていたりしてはいけません。
 そして、これらは以下の簡単な算式で表すことができます。

1日の総労働時間―アポイントメント(予定時間)ーパーソナルタスク(標準時間)×実行タスク数=フロート
 (左辺がマイナスになれば、右辺は「フロート」ではなく「残業」)

 ここではさらに、簡単な管理ツールを作ってみました。以下の表は、管理する部下メンバーにおける1日の「アポイントメント」の予定、それぞれが抱えている「個人(パーソナル)タスク」の件数を簡単にまとめるためのツールです。これを毎日はじめの10分程度、始業時ミーティングなどでチームの「リソース管理」を行ってみて下さい。これだけでも、チームの状況がよく見えてくるはずです。
 管理職のあなたは部下それぞれに、どれだけのアポイントメントが入っているのか(こなせる範囲か)、その日に実行しようとしているタスクはアポイントメントの合間のどこで処理しようとしているのか(例えば、表の「佐藤さん」の曲線矢印)、フロートが大きすぎて人的資源が遊んでいないか(例えば「佐藤さん」は14時以降、アポイントもタスクもないので、他のメンバーのタスクを引き継ぐよう指示する。また、余裕時間の偏りがあれば、タスク割り当ての変更や優先順位の低いタスクの先送りなどを行う)について検討する。そして、個人の動きの制約となるアポイントメントの時間設定や短縮化、技能の向上により効率化できるのであればそのための教育研修、また、各タスクの優先順位を見極めるため部門間で情報共有を行い、さらには、フロートさえも単なるリフレッシュに留めることなくチームメンバー間のコミュニケーション促進を図る工夫など、様々なアイデアを行動に移して行く。それが、管理職の行う「リソース管理」なのです。

2017/10/12

退院支援協働タスクのネットワーク化とモデル化

「退院支援ナースは、医師の指示の前に動き出して欲しいんです!」

 医師曰く「病棟のナースは医師の指示待ち族ばかり。医師が指示しないと誰も動かない。ただでさえ医師は超多忙なのだから、退院支援ナースならなおさら、先々を考えて退院支援に動き出して欲しい。そうでないと、在院日数を縮めるとか永遠に無理!」
 他方、看護師曰く「何だかんだ、責任を負っているのは主治医。ナースが判断なんかしたら、それこそ大問題。医師は患者の状態を踏まえた上で、治療と検査のスケジュール、退院見込みの提案、退院日の調整指示、最終カンファレンスへのGoサインぐらいサクッと出してもらわないと‥」

 医師と看護師からの板挟みに遭い、退院支援を構成するタスクを洗い出すことにしました。病棟の退院支援を生産管理論の基本であるPERT(プログラム・エバリュエーション・アンド・レビュー・テクニック)モデルに当てはめ、多職種連携による作業を分解して時間軸のもとに並べ、全体の流れの最適化を図る方法です。入院から退院までの全ての作業の流れを鳥の眼で見渡せる作図を行うことで、関わる医療従事者が「次は何をするべきか」悟らせようとするものです。PERT図は通常、クリティカルパス(最重点管理工程)を見出す手法として普及しているので、皆さんが普段使っているクリニカルパスの原型モデルとなるものでもあります。

 今回は、症例が多くモデル化が容易な「誤嚥性肺炎患者の受け入れ」を想定し、肺炎治療から退院支援へとつながる多職種協働のPERT図を作成してみました(以下)。
 上の図は高齢患者が、発熱に伴って介護施設から救急搬送され、入院するケースです。PERT図ではイベントを丸印と番号で表現します。ここでは①を入院、⑨を退院としています。そして同図では、多職種が協働する様々な活動(アクティビティ)を実線の矢印で表現し、また活動は伴わないもののゴールや指示の確認(サイン)を破線の矢印で表現します。

 入院以降は、まず主治医を中心に治療計画を確認する「初期カンファレンス」などの初期イベントがあります(②)。そこでの合意事項のもと抗菌薬治療が開始され、検査スケジュールに基づき発熱とCRPを確認する治療プログラム(②→⑤)が医師によるメインの活動となりますが、同時進行で担当看護師と退院支援看護師による誤嚥性肺炎の嚥下評価プログラムが動き始めます。ここでは、そのプログラムを2つ設定しています。痰吸引の医療処置レベルを見極めるプログラム(②→③)と、食事が始まった段階から介護食レベル(キザミ食、トロミ食など)を見極めるプログラム(②→④)です。メインとなる治療プログラムで体温やCRPのアウトカム水準を確認する「中間カンファレンス」などのイベントが開かれます(⑤)が、このイベントまでに痰の処置方針(③)と介護食の対応方針(④)が見極められ、その(⑤)イベントでOKサインを出すという流れになります。ここまでが、治療プログラムを中心とした前半のプロセスです。

 後半は退院支援プログラムを軸とするプロセスに入ります。「中間カンファレンス」のイベントを起点に、メインとなるバトンは医師からMSWに移され、救急搬送元(自宅や介護施設など)に帰るのか、その他の退院先を探すのか、MSWが患者の病状と患者・家族の意思を確認して実際の退院先を確定し、併せてスケジュールの都合を確認して具体的な退院日を確定する退院調整のプログラムが動き出します(⑤→⑧)。それと同時進行で、担当看護師が「中間カンファレンス」で確認した医療処置方針に基づき患者及び家族を指導する医療処置指導のプログラム(⑤→⑥)と、退院支援看護師が退院先となる後方の関係者(介護施設の介護担当者、ケアマネジャー、訪問看護の担当看護師など)に情報を共有し、必要に応じて指導する後方指導のプログラム(⑤→⑦)が進められていきます。メインとなる退院調整プログラムで退院先と退院日を確定後「最終カンファレンス」のイベント(⑧)が開催されますが、このイベントまでに医療指導と後方との情報共有が予定通り執り行われ、担当者はそのイベントでOKサインを出さなければなりません。ここまで関係職種の担当タスクが時間通り遂行されて初めて、⑨の退院へと進んでいくわけです。

 この退院支援モデルは、現時点では協働タスクの連携構造図(ネットワーク図)に過ぎないので、それぞれの矢印の「時間軸の長さ(予定所要時間)」が入っていません。しかしながら様々な病状と重症度、様々な属性の患者の退院支援について、各タスクを開始するタイミングの変更、「ついで」の機会を使った効率化や情報システムの活用、それぞれの専門職が専門分野を超えて行うタスクの融通などを工夫しつつ、様々なケースの所要時間を計測、記録していくことで、在院日数の短縮化と標準化が進んでいく展開を期待しています。
 今後は、この「モデル」を「実績」に変えて行かなければなりません(こちらのエントリにつづく)。

2017/10/05

クリニカルパス上のインプット・アウトプットとアウトカム

「とにかく最終的なアウトカムは、退院基準の達成です」

 先のエントリ(こちら)でとりあげた「大腿骨頸部骨折患者が肺炎発症」のケースで考えてみましょう。クリニカルパスは、肺炎治療と整形外科手術と退院支援の3本がつながって同時に走る連立方程式です。3つの方程式それぞれにインプット、アウトプット、アウトカム(中間)があり、連立方程式の最後にまたアウトカム(最終)があります。

 まずはパス1本目。内科医が診察し、治療計画を立て、点滴抗菌薬を患者にインプット。検査スケジュールに合わせ発熱とCRPをチェック、例えば「38.0度、18mg/dL」まで下がったのなら、それがアウトプット。でも、未だ手術が出来る状態ではない。内科医と整形外科医で手術が出来る基準について、例えば「37.5度以下、10mg/dL以下」と定めたのなら、それがアウトカム(これは肺炎パス上のアウトカムに過ぎず、退院基準まで持って行くまでの全体で見れば「中間アウトカム」)。

 そして2本目。肺炎の中間アウトカムをクリアした患者を、骨折骨接合術や人工骨頭置換術パスへと接続。退院先の環境(自宅の状況など)及び患者ニーズを踏まえ、ADLやFIMのゴールを個別に設定。これがアウトカム。カンファレンスを行い手術とリハビリの計画を決め、手術実施(整形外科医の知識と経験と労働力をインプット)。手術が成功したら、それがアウトプット。この段階になると最終的な退院基準が見えてきます。疼痛管理に薬剤師や看護師が、同じくリハビリにPTやOTがインプット。それぞれが持ち場でタスクを工夫して少しでも状態・状況を改善させたのなら、それらは全てアウトプットにはなるが、それぞれが最終的な退院基準(アウトカム)につながるレベルでなければいけない。

 3本目は、上の2つと同時進行。多職種で退院支援パスを組み、ケアマネジャーが労働力をインプットして介護保険申請し保険適用なら、それがケアマネジャーのアウトプット。MSWが労働力をインプットして患者と家族のニーズを傾聴し、OTのインプットと共に家屋調査を実施して、ADL等の設定ゴールの実効性を確認したら、それがMSWとOTのアウトプット。そして、退院支援ナースがそれらアウトプットを踏まえ、病棟で実際の動きを想定してチェックするなどして主治医に治療終了の目安を確認し、患者や家族と退院日のスケジュールを調整するなどもろもろのインプットがあって、めでたく無事退院。これが、最終アウトカムになります。

 節目となるポイントは、内科医が手術OKのサインを出す「肺炎治療の中間アウトカム」(体温とCRP基準)、整形外科医とPTやOTが退院OKのサインを出す「骨折手術の中間アウトカム」(疼痛管理やADL等の基準)、MSWやケアマネジャーそして退院支援ナースが環境状況OKのサインを出す「退院支援の中間アウトカム」であって、これらの連立方程式を全てクリアした段階が「退院基準達成という最終アウトカム」となる訳です。

 ちょっと混乱させてしまったかもしれません。1本目のクリニカルパスには、内科医と担当看護師の知識と経験と労働力がインプット(投入)され、その過程でアウトプット(結果)をいくつか出しつつ、2本目につなぐアウトカム(成果)まで持って行く。2本目のパスでは、整形外科医と担当看護師とリハビリスタッフの知識と経験と労働力がインプットされ、その過程でアウトプットをいくつか出しつつ、退院基準を満たすアウトカムまで持って行く。3本目のパスは、患者ニーズに応じて始まり、例えば期間を要する介護保険申請などでは、早くからケアマネジャーやMSWの知識と経験と労働力がインプットされていて、退院支援ナースはその全体を見通しつつ、あらゆる局面でさまざまなインプットを惜しまない。

 「チーム医療」とは、これら多職種によるインプットとアウトプットの集合体であり、かつ、アウトカム基準によるパスの相互接続があって初めて成り立つもの、であると私は考えています。

2017/09/24

院内連携のための「情報流」システム

「物流システムのように、“情報流”システムを整備するということですね」

 「物流が滞る」というのは、どういう状態を指すのでしょうか。包帯やサージカルテープなど衛生材料の物流で考えてみましょう。まず工場で製品が作られ、工場敷地内のメーカー倉庫に一時保管されます。商社や卸業者はそれを買い取ってトラックで引き取りに行き、自社の大きな物流センターに一旦運び、そこで荷分けして各地の営業所に向け分割配送し、病院グループなど大口取引先の場合はそこから直接病院へ、小口の場合はさらに小売業者を通じて、病院の用度係へと納品されていきます。この一連の製品の流れを「物流」と呼び、工場に原材料が届かなかったり、トラックが手配できなかったり、どこかの段階で倉庫がカラになってしまったり(逆に山積みになってパンクしたり)、病院の用度係にストックがなくなったり(逆に病棟の廊下に溢れたり‥)してしまうことを「物流が滞る」と言います。

 滞った物流をスムーズに流すために、企業は対策を立てます。最も簡単な方法は、多めに作って、各段階の倉庫で多めに備蓄しておくことです。でもそれでは倉庫用に広い場所を確保しなければならないので、コストが掛かって経営を圧迫します。衛生材料ならいざ知らず薬となると使用期限があるので、大量備蓄が大量廃棄になるリスクも出てきます。そのため企業は川上の工場に、川中となる卸の営業所の流通動向及び川下の小売店や末端消費者の消費動向をリサーチさせます。その結果をもとに工場は、ただ闇雲に大量生産することを止め、適正量を計画的に調整しながら生産することとし、他方、川下の小売店等は、工場の調査の限界を埋めるべく毎日の消費データを分析して工場にフィードバックしつつ、必要に応じて販促営業を強化したり、別の製品を紹介したりして、物流の最適化を図っているのです。

 病院の退院(在宅)支援プロジェクトなどで運営上の諸課題を聞いた時、良く出てくる話に「病棟やリハビリ(川上部門)の持つ患者情報が、外来や訪看(川下部門)へと流れて行かない」という現場の訴えがあります。外来や訪看のナース、MSWやケアマネジャーにしてみれば、「現場で使える共有情報が意外に少ない」「電カル上で探すのは一苦労」。つまり、物流(物の流れ)ならぬ「情報流(情報の流れ)が滞っている」ようなのです。では、その対策は何か?と聞くと、どの病院も「職種間でコミュニケーションを図り、院内連携を強化する」とのワンパターン回答。互いに話し合って頑張ろうという姿勢はいいのですが、情報の流れの川上から川下までを俯瞰し、「滞り」を調査してシステムとしての根本的改善を図ろう、という発想にならないのがずっと気になっていました。

 企業の対策としてはまず初めに、川上の工場の「ただ闇雲に大量生産する」活動の見直しに着手します。量産効果でコストダウンが図られるため、工場はついつい食べ過ぎがちです。でも胃腸が弱いのに、お得だからといってドカ食いしたら、便秘になったり体調を崩したりするのは当然でしょう。さて、ここで医療従事者の皆さんに、川上となる自院の病棟やリハビリの「情報生産活動」を改めて評価してみて欲しいのです。加算が付くから、電カルがそうなっているから、転院先に求められたからなどなど様々な理由はあると思いますが、極めて膨大な文書情報を後先考えず闇雲に大量生産していませんか?

 そうなんです、物流と同様に「情報流」もそうして滞っていくのです。物流は物を扱うので、量産し過ぎたら山積みになって目に付くし、倉庫がいっぱいになればコストが嵩むから解りやすいのですが、情報はコンピューターの中に入っているので「情報流の滞り」が実は解りにくい。しかしながら目に付かないだけで、多くの病院の情報流は既に滞っているのではないでしょうか。闇雲に大量生産して、工場の倉庫のごとく大量に山積みし、どこからどう触っていいか検討も付かない状況を放置しつつ、川下の営業所や小売店に「お前ら早く取りに来い!」「自分で探して活用しろ!」と言っているようなものかもしれません。工場における物の生産がその後の消費現場の動向分析で決まるように、病院における医療情報の生産はその後の退院支援や在宅医療の動向分析で決まる。そんな「情報流システム」構築の検討が必要になっていると思います。

2017/09/17

複合疾患の増加と「転科パス」

「内科と整形の研修医の忙しさの違い、ちゃんと見て下さいよ!」

 その病院の医局では、整形外科ドクターの疲弊が目立っていました。骨折患者が多いのはそこも同様で、救急から入院となった患者を整形外科のドクターが主治医として受け入れていました。しかし、入院からしばらくして患者の発熱や容態悪化で肺炎が確認され、内科ドクターの診察の後、点滴抗菌薬の投与で発熱とCRP値が基準値を下回るまで骨折の手術を見合わせる、というパターンが増えています。ここで取り上げたケースは、大腿骨頸部骨折(整形外科)と肺炎(内科)の複合疾患でしたが、主治医を変更する再調整業務など医局政治的に大問題、ベッドの引っ越し移動もナース以下の大仕事となるので、その肺炎治療中の患者の主治医は整形外科ドクターのまま、病棟もベッドもサマリー担当も当然ながら手術も整形外科のままとなって、整形外科所属の医師は部長から研修医まで終日てんてこ舞い‥。これが「疲弊」の構造です。患者の高齢化に伴い、こうしたケースはどんどん増えていくでしょう。

 このとき、経営学者が考える「最大の問題」は何だと思いますか? 整形外科ドクターの長時間労働、医局間のコミュニケーション不足などいずれも大きな問題ですが、「最大」ではありません。ここで、私が最大の問題として捉えるのは「タスク間従属関係の逆転」です。これは生産管理論の視点で、以前のエントリ(こちら)でお話した「カレーの具材仕込みと煮込みが終わっているのに炊飯器のスイッチ入れるのを忘れていた」ケースと同じです。肉や野菜を切るタスクは炊飯のタスクに「従属している」のに、つまり最も時間を要する炊飯器でご飯が炊けるまでの間で、具材の仕込みやら煮込みやら「その間で処理できるタスクを填め込む(従属させる)」工程のプロセス構築が不可欠なのに、現実がそうなっていないという問題です。内科が炊飯、整形外科が具材仕込みで、整形の仕込みは内科の炊飯に従属するタスクなのに、従属・被従属間で連携がとれていないばかりか、被従属タスクを担当する内科がクリティカルな(最重点管理工程としての)役割を果たしていないのです。

 「カレーライス」が解りにくいかもしれないので、整形外科と内科の話に戻します。この複合疾患の治療で、熱とCRPが下がらないと骨折の手術が出来ないということは、整形外科の手術は内科の治療に「従属している」ということを意味します。各タスクの従属・被従属関係が明確にある複合タスクにおいては、被従属タスクを担当する部門(この場合は内科)がリーダーシップを取るのが通常の姿です。点滴抗菌薬による治療の経過観察を行い情報を共有し、後に続く骨折手術の担当者に必要なリードタイム(手術の準備をしっかり行える時間的余裕)を与え、ケースごとのバリアンス(軽快化までの想定時間の見込みが外れたケース)の原因を分析して次に備える。流れ作業におけるリーダーシップの基盤は、「待っているタスク担当への思いやり」であり「従属タスク全体への目配せ」だと考えています。

 問題を解決するため、その病院の医局では新たに(整形外科から内科への)「転科パス」の整備を検討することにしました。まず、転科の客観的基準を明確化することとし、整形外科主治医の骨折患者が「体温38.5℃、CRP値15」を上回った場合に、病棟師長などの経験あるナースが腎機能や肝機能などその他指標や患者の容態を総合的に勘案して、所見とともに「転科申請」を行い、必要に応じてカンファレンスを設ける。そして、この一連のタスクの流れを「転科パス」として組み上げて院内に周知し、担当それぞれの責任範囲を明確にしつつ、タスク執行に必要な権限を与える。クリニカルパス整備の観点で言うなら、既存の内科・肺炎パスと整形外科・骨折パスをつなげる「転科パス」は、言わば「バイパス手術のグラフト」のようなものです。

 「こんな面倒なことしなくても、昔なら、院長のリーダーシップでちょっと話して、すぐ調整できたんだけどなぁ‥」(整形外科の年配ドクター)、「それができないから現場が疲弊してるんじゃないですか?」(私)。そんなやりとりで、静にコンサルティングが終了しました。

2017/09/11

アウトプットから「スループット」へ

「スループットとか、初めて聞きました」

 いま私はパソコンでワープロを立ち上げ、この原稿を書いています。文章が出来上がったら、パソコン画面で印刷指示を入力(インプット)しプリンターから出力(アウトプット)するのですが、昔は「“印刷”をポチっ!」から「プリンターから紙がガぁー」までソコソコ時間が掛かっていました。マウスでポチっとすると、パソコンが静かに「スコスコ」言った後、プリンターが騒々しく「ウィンウィン、ギーガチャ、ギーガチャ」と10秒弱唸り続け、その後しばしの沈黙があってから「(紙が)ガぁー」、でした。それが最近は、明らかに機械の性能が向上しています。いまは、ポチっから1~2秒でガぁ-です。

 このパソコンとプリンターの変化は、経営学で言うところの「スループットの向上」です。スループット(through-put)とは「処理力」を意味し、IT産業や製造業では「一定時間当たりの処理量・処理スピード」と定義されます。マウスを「ポチ、ポチ、ポチ、ポチ」と連打して、一定の時間内で「ガーーーー」と何種類の印刷が出せるか、という能力です。文字通り、「through(通して)put(置く)」能力のことです。毎日の何気ない文書の印刷も、コンピュータのCPU(中央処理装置)の能力が向上して、様々な情報インプットによるたくさんの指示もサクサクこなせるようになり、プリンター内部でもローラーを組み合わせた紙送り技術が向上し、給紙から転写そして排紙のシステムが効率化されました。インプット(印刷指示)とアウトプット(印刷)の間にある概念が、このスループット(処理速度)なのです。

 インプットからアウトプットまでの処理スピードと処理量がスループットなので、文章そのものの入力もインプットだとすると、モノ書きとしての私のスループットは、「キーボードを叩き始めた時点から原稿の出稿までの時間」、そして「時間当たり何編の原稿を書き、編集者に入稿できるか」という執筆能力を表す尺度となります。アイデアが思いつかず、キーボードの上で両手の動きが止まりウンウン唸っている私は、さながらスループットが低い一昔前のプリンターです。さらに、私が持っていたプリンター自体も反応が悪く印刷時間が長いのですから、スループット的には最悪な組み合わせとなるのでしょう。

 実は、病院に勤める医療従事者の皆さんは日々、この「スループット」に向き合っています。理事長や看護部長が毎日のように叫ぶ、「診療計画書はその日に出せ!」「シームレスな(滞りなく流れるような)チーム医療を!」「ベッドは稼働していて当然!」「ベッド1台当たりの患者回転率を引き上げよ!」「退院支援を強化せよ!」「平均在院日数は可能な限り短く!」などのお小言は全て、経営学で言う「スループットを引き上げろ」を意味する指揮命令です。「救急は断るな!」「MSWは患者を取りに行け!」というインプットや、「受け入れ特養を探せ!」「訪看や小規模多機能を使って在宅化を推進!」などのアウトプット戦略も重要ですが、その間にある肝腎のスループットが滞ったままでは、病院経営内部の本質的な構造改革は何時まで経っても成し得ないのです。

 日本企業の製造現場は、全社的なスループットの引き上げを目指し、各担当部門の一人一人が話し合い、互いに連携しつつ、涙ぐましいほどの「小さな小さな工夫」を積み重ね続けています。生産計画を立て、計画書を共有し、毎回のように見直し、それに合わせて生産ラインを組み、全体のスピードを考え、生産しながら計測し、ちょっとしたボトルネック(流れの滞留)も見逃さず、必要に応じてラインを組み直し、各部門が数秒ずつ短縮させ、工場のライン全体で数分短縮できたら大成功です。さながらオリンピックで銀メダルに輝いた、男子陸上400mリレーのバトンパス技術のようです。
 少なくとも製造業では、「計画をいくつか標準化(パスを整備)」「顔が見える連携が必要」「互いの仕事内容を理解すべき」「リスペクトし信頼を育む」なんてレベルではお話になりません。

2017/09/10

情報社会の「患者アウトカム」

「その治療の成果は、患者の求める“アウトカム”になっていますか?」

 貧しい時代、社会が求めていたのは「アウトプット」(生産量)でした。明日食べるものがない、お店に行ってもモノがない、の無い無い尽くしで、市民は様々なものに飢えていました。それを見て立ち上がった事業者が、生産を始めます。作ったそばから売れていくので、大量に作った事業者が評価されました。さらに、貧しい市民はおカネがありません。それゆえ出来るだけ安価なモノが求められていました。事業者はインプット(資材投入)にコスト(経費)とマージン(利益分)を乗せて価格を決めますが、それを抑えるために、大量生産を志向しました。量産効果でコストダウンが実現するからです。その意味でも、量産つまりアウトプットの量的拡大が大きな目標になっていました。

 豊かな時代に入り、店先にモノが溢れるようになって、単なるアウトプットは評価されなくなりました。何かモノを作った、事業者がアウトプットしただけのモノに、消費者は見向きもしなくなります。消費者はモノに飢えているわけではなく、消費者が価値を見出したモノしか売れません。事象者が生産し売り出すアウトプット(生産物)によって、何らかの成果、効果、価値、満足が得られると消費者が確信したとき、消費者はそれを購入します。しかし、その「何らかの成果、効果、価値、満足が得られなかった」とき、消費者は不満を持ち、その事業者を低く評価し、社会に訴えます。消費者の「何らかの成果、効果、価値、満足」こそが、この時代の「アウトカム」(成果)なのです。

 さて、これらを医療に置き換えて考えてみましょう。肺炎で発熱している患者を診察し、診療計画を定め、入院させて点滴抗菌薬を投入(インプット)します。幸いそれによって炎症が抑えられ、CRPが低下し熱が下がったとします。このときの「体温37.4度以下、CRP10mg/dL以下」という状態及びそれを示すデータ、これが医療の「アウトプット」です。しかしながら多くの患者は、このデータを客観的に評価することができません。「貧しい時代」が求めた工業社会は、「豊かな時代」に入り、既に情報社会へと変化しています。豊かな時代の患者の場合、そのアウトプット(治療結果のデータ)に「成果、効果、価値、満足」を感じられなければ、それは「アウトカム」ではないのです。「抗菌薬のインプットによって、私たちは下熱と炎症回復というアウトプットを得た。もう治療することはない。退院して欲しい」と医療従事者が説明しても、患者は「まだ私のアウトカムは来ていない。あなたのアウトプットに私は価値を感じないし、満足できていない。退院など論外。満足のいく治療をして欲しい」と出張し、両者の議論は平行線を辿ってしまうのです。

 現代の豊かな情報社会においては、医療におけるアウトカムの目標は、あなたの患者が「何らかの成果、効果、価値、満足を得た」と感じるレベルに設定しなければ意味をなしません。患者が「成果、効果、価値、満足」を感じない限り、そのアウトカムは貧しい時代のアウトプットに過ぎないのです。医療従事者の出したアウトプットを、患者と家族がアウトカムとして評価できるように、解りやすい情報提供、客観的かつ相対的な状況説明、インタラクティブな(対話を介した)評価指導が徹底されなければなりません。「患者のアウトカム」のハードルは、情報社会の進展とともに、加速度的に高まってきているのです。

2017/09/07

多職種連携のための “communication”

「IPWが上手くいかないので、マーケティングとリーダーシップを教えて下さいませんか?」

 私の専門が経営学だと聞くと、このような話を向けてくる病院経営者が結構いらっしゃいます。まさに、国を上げての地域包括ケアシステム構築が求められるなか、IPW(Inter-Professional Work:専門職連携)の生産性引き上げは喫緊の課題です。地域に密着する病院はいずれも、在宅医療に向けた退院支援の推進に熱心ですが、そのためには医師、看護師(プライマリー・退院支援・訪問看護ナース)、療法士(OT・PT・ST)、MSW、ケアマネジャー、介護福祉士など関係「専門職」の「連携」が絶対不可欠となるからです。

 「連携!」の掛け声は良いとして、患者ADLの向上、在院日数の短縮、再入院率の削減など実際の生産性データは思うほど芳しくなく、多くの理事長が歯がゆい思いをしています。その理由としては、①患者視点が欠けていて、患者ニーズをしっかり捉えられず、また②専門職同士の相互理解が不十分で、それぞれのモチベーションが活性化されていないため、結果としてIPWチーム医療のシナジー効果(相乗効果)を十分に引き出せない現状がある、と考えられています。それゆえ、①の「患者視点と患者ニーズ」を捉えるために、経営学の「顧客志向マーケティング」を、そして②の「相互理解とモチベーション」を高めるために、同じく経営学の「組織リーダーシップ」を、病院の専門職たちに是非教えてあげて欲しい、とうことなのかと思います。

 そんな懇親会などでの立ち話の多くはその場限りのものなので、そうした話の流れでは病院経営者の方々に、とりあえず「自ら考えるヒント」をお伝えすることにしています。それが標題、“communication”の言葉の語源と意味です。
 communication(コミュニケーション)の語源と意味は、単なる「対話」ではありません。元々はラテン語の“communicatio(コムニカチオ)”が語源となっていて、その意味は、“share(シェア)”つまり「分かち合うこと」です。また、単語そのものをスペルから分解していくと、接頭辞の“com-(ともに、一緒に)”に、“municipal(自治の仲間=地方自治体の)”の意味を持つスペルが続き、最後は“-cation(-化)”で終わります。これらから考えると、コミュニケーションという言葉には「課業の“シェア”と業務の“共同自治”化」という目的的な意味が込められていると考えられます。現代でいう「対話」を手段としながら「仕事のシェア(分かち合い)と業務の共同自治(自らの責任による自らの処理)に向けて活動するさま」を表しているのです。

 マーケティングもリーダーシップもいずれも、経営学の主要科目です。これらの講義研修を新たに企画してしまうと、これまたもっともらしい膨大なコンテンツと学習メニューが提示され、真面目な医療従事者の皆さんはそれらのメニューを日々こなしていくことに傾倒してしまうでしょう。「真面目なスタッフ」にまず提示すべきは学習メニューではなく、本質を表すキーワードだと思います。IPW(専門職連携)が今ひとつと感じた場合は、第一に、業務全体の「仕事を分解」(WBS:詳しくはこちら)して関係専門職に改めて「シェア」し、第二に、各仕事における担当者の「責任を明確化」させて自らチームで「共同管理」する仕組みを作り、そして第三に、その仕組み作りに向け、担当者間での「対話」を継続させる。まずはこれだけ、で現場を見直してみることが肝要です。

2017/09/04

作業には、クリティカルな「順序」がある

「退院間近になって介護保険申請とか、普通ありえないでしょ」

 既婚者・子ありの「ママ・ナース」を研修で集め、自宅でカレーライスを作る話をします。冷蔵庫のなかスッカラカン、まずは買い出しにスーパーに行き、とりあえずカレーの材料は一通り揃えた、とする。子ども達はお腹をすかせて待っています。そこで「さて、最初の作業は何ですか?」と質問します。病院ではナース、自宅ではママをしている彼女たちの答えは十中八九、当然のことのように「そりゃ先生、まずお米研いで炊飯器のスイッチをカチャ、に決まってるでしょ」。

 「大正解です」と軽く褒め称えた後、私はダメな例として、大学のゼミ夏合宿で大学生がよくやるパターンについて話をします。湖畔や山林のコテージから、男子を中心にクルマに乗って買い出しに行って、女子は合宿所に残ってキッチンの確認。買い出し班が戻ったらテーブルに材料を広げ、男子女子ワイワイがやがや肉を切って、危なっかしい手つきで野菜を切って、キャーキャー言いながら鍋で炒めて、水を入れて煮込んで、「俺、これ好き」だとか何だとかでカレールーを投入し、調理開始から1時間強。合宿所にカレーの良いにおいが立ちこめ、お腹が減ってイイ感じになってきたところで、「あ、ご飯炊くの忘れた」。そこから慌てて米を研いで、炊飯器でご飯ができるまでプラス1時間弱。空腹が我慢できず、夜の飲み会用のポテチで飲み出す男子多数。結局、買い出しからカレーライスにありつけるまで、かかった時間は、買い出し30分+カレー完成1時間強+炊飯1時間弱の、計2時間半。私はそこで、「大学の合宿なら笑って思い出だけど、就職した先の会社でコレやったら、そのうち左遷だよ」。

 研修はママ(ナース)の集まりですから、「全く大学生は子どもよねぇ」といった感じなのですが、私はここぞとばかり、「皆さんの日頃のお仕事では、そういうのはゼロ、絶対ありえませんよね?」と問い正します。例えば、大腿骨頸部骨折の患者さんが、手術して、リハビリして、カンファレンス開いてドクターの退院・在宅療養OKが出た後で、ワーカーが自宅の家屋調査に行って、家のトイレや階段のものすごい段差を発見する。「ご家族は、段差とか無い。ゼンゼン大丈夫って言ってたのに!」とか怒ってみても後の祭り。リハビリ目標は再設定、段差解消のリフォームを大工さんに発注したら、見積もりの現場確認アポで1週間とか言ってる。「もっと安い業者あるかも」で複数に相見積もり取ってプラス1週間。設計図と総額固まって発注したと思ったら、今度は下請けの職人が忙しくて予定が立たず、そこから1カ月待ちなんだとか。かと思えば介護保険申請の手続きを忘れていて、言った言わないの騒動むなしく、さらにプラス。プライマリと退院支援のナースの間で責任の擦り合い、リハのOTとMSWのチームワークもなく、気付いてはいたけど、ともに放置。患者に聞いてもラチ開かず、結局何だかんだで、2週間で退院できる患者の在院日数1カ月半。看護部長と事務局長は相当のオカンムリ。ご家族らは何処吹く風で、「長く入院できて良かったわよね-。やっぱり病院は安心だし」とご満悦。ナース曰く、「だってウチ、多職種連携とかダメな病院だから。昔はそんなの良くあったし、似た患者で2カ月入院とかもありましたよ」。

 カレーライス作りに戻って、今回のまとめです。「炊飯」の仕事の「順序」を守るだけでの工程全体が効率化され、総時間は短縮できるということ。肉や野菜の仕込みや煮込みの作業は、後半の「炊飯1時間弱」のご飯が炊きあがるまでの間に処理できる。つまり、これらは「炊飯」作業に従属する作業である。このときの「炊飯」作業を「クリティカルタスク(最重点管理作業)」と言い、これをきちんとこなすことで、ゼミ夏合宿の現実の「計2時間半」より約1時間短縮できます。経営学では、この「30分+1時間弱」にシュッと炊飯作業(クリティカルタスク)をメインに最適化した工程を「クリティカルパス(最重点管理工程)」と言います。そうです。皆さんが普段使っている「クリニカルパス」の原型こそ、このクリティカルパスなのです。

2017/08/25

チーム医療の「全体最適」

「私は有資格の専門職なので、専門以外のことはやっちゃいけないと思ってます」

 どんな職種でも、専門技術のレベルが向上することは喜ばしいことです。分野を限定して特化し、特定の作業のみに集中すると、情報や経験をより早くより深く蓄積することができます。未熟練の初心者でも、生産ラインの作業を効率的に分割し、一つの作業のみに特化させると、その作業の習熟曲線は短期間で上がっていきます。しかしながら、その作業は全体の中の一部に過ぎないので、工程システム全体の構築がかっちり確立していないと、一部だけの習熟曲線向上など意味を成しません。一部だけかっちりしていても、全体のかたちがグズグズなら、「チーム」仕事での結果が求められているのならなおさら、良好なパフォーマンスは出せないからです。

 冒頭の良く耳にするセリフについて言えば、「有資格の専門職」の仕事で、その仕事全体が完結するなら、それで問題ないかもしれません。例えば、一つの工芸作品を一人の職人が、加工から仕上げまで完全な一貫生産で、責任を持って取り組むような仕事です。それでも、自分一人でやっているように見えて、他に依存している部分は必ずあります。木の角材から、自分一人で削って磨いて絵を描いて人形を作るような職人作業でも、良質な角材を山林から探して切り出し、加工しやすい状態まで乾燥させ、手頃な大きさに切断して納品してくれる素材業者が存在して初めて、職人はその専門技術を発揮することができるのです。一見して「チーム」仕事でないように見えても、そこには裏方のチームメンバーが往々にして存在していて、そのメンバーがいなくなると途端にパフォーマンスが落ちてしまう、というわけです。

 病院をはじめ多くの医療施設で繰り広げられる仕事は、概ね基本的に「チーム」仕事でしょう。「チーム医療」という言葉は、既に広く定着しています。それぞれが専門職として担当している仕事の環境を整備しパフォーマンスを上げていく取り組みは重要ですが、それは「部分最適」に過ぎません。個々の医療従事者に求められる第一の目標は、チーム医療としての「全体最適」です。その全体最適」の引き上げのために必要な(自分からは見えない)仕事について、一時的にでも専門分野を離れ、鳥の眼で全体プロセスを見渡しながらそれが何かを探し、それが特定できたのなら、専門以外のことでも積極的に取り組むべきだと思います。この視点なくして「全体最適」は成しえません。

 とはいえ、例外もあるでしょう。たとえ「有資格の専門職」でも、全体のパフォーマンスの足を引っ張ってしまうほど著しく経験が欠如しているなら、専門技術の習熟曲線が一定程度上がるまで「専門以外のことはやっちゃいけない」(やってる場合じゃない)かもしれません。資格手当は貰っていいが、技術手当や技能手当は貰えないレベルの場合です。そうした若手がああしたことを言うのなら、こういう理屈を説明し、そこそこのレベルになるまで見守ってあげるのも、寛容な先輩としての大事な仕事だと思います。

2017/08/24

WBSで仕事の「分解」

「これ、私の仕事でしょうか?」

 「私は看護師なのに、本来はソーシャルワーカーがやるべき患者家族の相談対応をさせられている(看護の仕事だけでも激務なのに‥)」、「私はケアマネジャーなのに、本来は医療事務がやるべき雑用やヘルパーがやるべき介護までさせられている(ケアマネの‥以下同)」などなど。医療従事者と話していて、頻繁に耳にするセリフです。その背景にあるものとして、そもそも人手が足りず定着も悪い、職務規程があいまいなので仕事の境界がはっきりしていない、職場のコミュニケーションが不足していて仕事相手の状況やニーズが掴めない、などがあげられています。

 「人手」の人数は規定上足りていても、定着が悪く勤続が短いと状況判断が出来る人は限られ、どうしても特定の人に仕事が集まってしまう。政府は「働きかた改革」等で劣化した労働環境を改善すべく残業削減など様々な労働者保護政策を出しているのだけど、当院の幹部はそんなの気にしていないようだ。もう忙しすぎて、このままだと体調を崩してしまう。せめて通勤時間だけでも削れるように、ここは辞めて自宅近くに転職しよう。こうして平均勤続年数がさらに短くなり、問題がさらに悪化して、おきまりの悪循環に陥る。こんなケースに対する自己防衛的な姿勢が、冒頭のセリフのようなかたちで表出しているのだと思います。

 こんなときは経営学の基礎、WBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー:作業分割構成)の概念について解説し、それぞれの職場の仕事(ワーク)の「実際の流れ」を確認したあと、各パートの「内容別・専門別の分解(ブレークダウン)」を行ってみてはどうでしょうか。自分たちの仕事の内容を、まるで人ごとのように、「ここからここまではこういう仕事、そこから先はこういう仕事。その間に誰と誰のミーティング、そして全体のカンファレンス」など、仕事を個別に分解する作業です。分解した作業には、それぞれ名前を付けてもらいます。「患者さんのご家族への連絡」などの小さな仕事も、「家族アポ」でも何でも良いので、自分たちが判るような言葉で名前を付け「ワーク(仕事)」として位置づけて下さい。その後、ワークの一つ一つを、あるべき形につなげて並べていく(ストラクチャー)。仕事のパーツを、中学の数学の簡単な方程式のように公式を交えて1行ずつ因数分解したあと、それぞれをドミノ倒しのコマようにつなげて並べていくイメージです。

 すると、それぞれの仕事の「あるべき内容」や「こなすべき順序」、さらには「やるべき担当」と「前後の距離感」が見えてきます。確かに専門分野とはかけ離れているけれど、この流れでそこにいるのだから、その人がやったほうがいい、つまり「立ってる者は親でも使え」的な感覚です。もちろん、「立ってる者」ばかり使うと、その者が疲弊するし不満を募らせるので、全員で話し合って、ギブアンドテイクやお互い様や「労働力の貸し借り」の仕組みを決めて、実際にやってみる。しっくりこなかったら、もう一度作り直す。WBSが、その作業をするのに不可欠な知識となるはずです。