2017/09/05

医師と看護師の「働き方改革」

「もう毎日忙しすぎて、とにかく政府に何とかしてもらいたい一心ですね」

 2017年の東京の夏は雨ばかりでしたが、霞ヶ関の労働界隈は非常にホットな夏でした。政府は前年の夏「働き方改革担当大臣」という新ポストを設置し、翌年ことしの春「働き方実行計画」を発表しました(詳細はこちら:首相官邸HP)。そして、この夏、その法律案がまとめられています。法案に対し各方面から反論が出て、それをマスコミが取り上げ、国民的議論になってこじれて廃案‥という流れは隣国のミサイル発射と核実験ニュースにかき消されそうなので、この秋の臨時国会法案提出が順当かな?と考えています。そして国会通過で成立すれば、速やかに周辺のガイドラインや施行細則が整備され、翌年あるいはその次の年度はじめから法施行、新たな「働き方」が始まるということになります。

 「で、何を改革するのか?」ですが、大きく二つ「時間外労働の上限規制」(労働基準法、労働安全衛生法などの改正)と「同一労働同一賃金法制」(パート労働法、労働契約法などの改正)が目玉です。
 「時間外労働の上限規制」については2016年の秋、大手広告代理店社員の自殺が過労死と認定されたことが背景にあります。これをマスコミが大きく取り上げ、長時間労働が社会問題となりました。これらを受けて政府は、時間設定に関する紆余曲折の議論の結果、時間外労働の上限を「原則月45時間、年360時間、特例の場合は年720時間」と設定しました。さらに、従来まで猶予されていた中小企業にも「割増賃金率」を新たに適用し、年収1,075万円以上(「平均年収の3倍以上」という基準)の人なら一定条件の下で長時間労働も可能な「成果型労働制」(高度プロフェッショナル制度)を新たに設けました。
 一方、「同一労働同一賃金法制」については、いわゆる「正規・非正規間の格差」が、長らく社会問題としてマスコミに注目されてきたことが背景にあります。これを受けて政府は、短時間パートも有期契約もいずれも、職務内容が同じなら正規と「均等待遇」にするよう求め、「賃金などの待遇決定は個別の労使決定が基本だが、不合理な待遇差は是正が必要」という理念を掲げた法律を新たに作り、労働者からの裁判が増えることを前提に、各職場に「職務の成果、意欲、能力、経験」の司法判断要素を整備するよう規定を設けるとしています。

 これらは「法制化」つまり法治国家の法律ですから、もちろん医療の現場にも原則例外なく適用されます。
 時間外労働(残業)の上限については、年720時間のほか「休日出勤を含み2~6ヶ月平均で月80時間以内、休日出勤を含み単月で月100時間未満、月45時間を上回るのは年6回まで」とする「過労死基準」も法制度に加えられます。しかしながら医師については、医療現場の現実と応召義務の存在が考慮され、とりあえず「適用除外」となりましたが、「2年を目処に議論して規制のあり方をまとめ、法改正5年後を目処に規制を適用」する方向が示されています。今のところは先送りとなっていますが、今後の「ウルトラC」(例えば、医師を「年収1,075万円以上」の枠に組み入れる等)もあり得ないことではありません。
 一方、同一労働同一賃金の法制化については、「同じ職務で、同じ責任の程度」なら賃金などの条件を「均等待遇」にしなければなりません。女子型雇用の看護師では、出産後に職場復帰する際、子育てと両立させるために短時間の非正規形態を選択する人が多くいますが、これらの賃金条件の実態は「正規と均等待遇」になっていないケースが結構あります。さらには従来からの、いわゆる「正看・准看間の同一労働同一賃金化」問題もあります。これから育児のママさん看護師には朗報ですが、マイナス改定に喘ぐ病院に賃金アップの原資はなく、病院経営者には頭の痛い法制化です。残念ながら裁判は増えていくでしょうし、逆に正規側の賃金条件が下げられたら、大混乱は必至です。

 政府の「働き方改革」は法案整備など着々と進んでいます。医療の現場も、真摯に対応していかなければなりません。(その後のエントリはこちら

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