先のエントリ(こちら)でとりあげた「大腿骨頸部骨折患者が肺炎発症」のケースで考えてみましょう。クリニカルパスは、肺炎治療と整形外科手術と退院支援の3本がつながって同時に走る連立方程式です。3つの方程式それぞれにインプット、アウトプット、アウトカム(中間)があり、連立方程式の最後にまたアウトカム(最終)があります。
まずはパス1本目。内科医が診察し、治療計画を立て、点滴抗菌薬を患者にインプット。検査スケジュールに合わせ発熱とCRPをチェック、例えば「38.0度、18mg/dL」まで下がったのなら、それがアウトプット。でも、未だ手術が出来る状態ではない。内科医と整形外科医で手術が出来る基準について、例えば「37.5度以下、10mg/dL以下」と定めたのなら、それがアウトカム(これは肺炎パス上のアウトカムに過ぎず、退院基準まで持って行くまでの全体で見れば「中間アウトカム」)。
そして2本目。肺炎の中間アウトカムをクリアした患者を、骨折骨接合術や人工骨頭置換術パスへと接続。退院先の環境(自宅の状況など)及び患者ニーズを踏まえ、ADLやFIMのゴールを個別に設定。これがアウトカム。カンファレンスを行い手術とリハビリの計画を決め、手術実施(整形外科医の知識と経験と労働力をインプット)。手術が成功したら、それがアウトプット。この段階になると最終的な退院基準が見えてきます。疼痛管理に薬剤師や看護師が、同じくリハビリにPTやOTがインプット。それぞれが持ち場でタスクを工夫して少しでも状態・状況を改善させたのなら、それらは全てアウトプットにはなるが、それぞれが最終的な退院基準(アウトカム)につながるレベルでなければいけない。
3本目は、上の2つと同時進行。多職種で退院支援パスを組み、ケアマネジャーが労働力をインプットして介護保険申請し保険適用なら、それがケアマネジャーのアウトプット。MSWが労働力をインプットして患者と家族のニーズを傾聴し、OTのインプットと共に家屋調査を実施して、ADL等の設定ゴールの実効性を確認したら、それがMSWとOTのアウトプット。そして、退院支援ナースがそれらアウトプットを踏まえ、病棟で実際の動きを想定してチェックするなどして主治医に治療終了の目安を確認し、患者や家族と退院日のスケジュールを調整するなどもろもろのインプットがあって、めでたく無事退院。これが、最終アウトカムになります。
節目となるポイントは、内科医が手術OKのサインを出す「肺炎治療の中間アウトカム」(体温とCRP基準)、整形外科医とPTやOTが退院OKのサインを出す「骨折手術の中間アウトカム」(疼痛管理やADL等の基準)、MSWやケアマネジャーそして退院支援ナースが環境状況OKのサインを出す「退院支援の中間アウトカム」であって、これらの連立方程式を全てクリアした段階が「退院基準達成という最終アウトカム」となる訳です。
ちょっと混乱させてしまったかもしれません。1本目のクリニカルパスには、内科医と担当看護師の知識と経験と労働力がインプット(投入)され、その過程でアウトプット(結果)をいくつか出しつつ、2本目につなぐアウトカム(成果)まで持って行く。2本目のパスでは、整形外科医と担当看護師とリハビリスタッフの知識と経験と労働力がインプットされ、その過程でアウトプットをいくつか出しつつ、退院基準を満たすアウトカムまで持って行く。3本目のパスは、患者ニーズに応じて始まり、例えば期間を要する介護保険申請などでは、早くからケアマネジャーやMSWの知識と経験と労働力がインプットされていて、退院支援ナースはその全体を見通しつつ、あらゆる局面でさまざまなインプットを惜しまない。
「チーム医療」とは、これら多職種によるインプットとアウトプットの集合体であり、かつ、アウトカム基準によるパスの相互接続があって初めて成り立つもの、であると私は考えています。
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