「やっと受入開始ですね! 経営者はみんな喜んでいます」
2017年11月、新しい外国人技能実習制度が始まって、外国人の在留資格「技能実習」の対象職種に「介護」が加わりました。特養などの介護施設はもとより、病院においても看護助手の担当分野で受け入れを進めようとする動きが進んでいます。なお、訪看などの移動を伴いつつ一人で行う分野については、言語や文化に不慣れな外国人にはリスクが伴うことから、その対象から外されています。
少子高齢化で利用者や患者は急増する一方、人手は集まらない。世界トップクラスの財政赤字で、報酬のプラス改定など望むべくもない。他方、医師や看護師など専門職の流動化はさらに進み、こちらの賃金は上がり続けて人件費も嵩み、その他の職種(介護系など)の賃金を上げる余裕などない。「外国人技能実習生の受け入れ解禁は、平成30年同時マイナス改定のバーター」なんて、医療介護関係者の「見立て」もチラホラ聞く昨今です。
この業界の皆さんには目新しい制度かもしれませんが、「技能実習生」はわれわれ企業経営関係者にとっては古くて新しい制度です。もう50年以上も前、1960年代に日韓国交正常化がなされ、日本企業が韓国に大量進出するとともに韓国からたくさんの「研修生」が来日し、アパレルや電子部品の工場で日本企業の技術を働きながら学んでいました。その後ほぼ30年前、1990年代に入って超円高と中国の改革開放とともに日本企業が中国に大量進出し、同様に中国からたくさんの研修生が来日しました。当時の日本はバブル経済の人手不足下にあり、外国人不法就労問題がマスコミで話題になっていたこともあって、研修生の企業受け入れを職種限定的に認め、中小企業が事業協同組合を設立して協同で研修生を監理する「外国人研修制度」が生まれました。不法就労の代替労働力として、職域を限定しつつ組合経由で間接的に在留を監理する外国人受け入れ制度、これが現在の「技能実習制度」の前身です。
バブル時代から現在に至るまで、研修ではなく、外国人単純労働者の解禁を求める議論が盛んに展開されて来ていました。「国際化」は現代のキーワードの一つでもあります。外国人の受け入れは政府の専権事項、つまり政治が決定することなのですが結局、「労働者」の受け入れ自由化には至っていません。現在のような難民受け入れに伴う治安悪化を心配する意見のほか、好況の時は良いが不況時には日本人労働者が職を奪われると危惧する意見、外国人の社会福祉や子弟の教育に多大な予算が必要になるという「社会的コスト」を踏まえた否定的意見(ただでさえ福祉予算が厳しいのに)などが根強かったためです。それゆえ、その中で生まれた研修生受け入れ制度は「帰国前提の外国人材育成で技術の国際移転を行う国際貢献制度」とすることが強調されてきました。とはいえ、人手不足対策兼不法就労者代替制度という現場の認識は否めず、研修生の受け入れは「建前は国際貢献だが、実質は労働力受け入れのグレーで曖昧な制度」と揶揄され続けてきたわけです。
2000年代に入り、日本経済においては長期に渡る不況が続いていました。いわゆる「失われた20年」です。デフレが蔓延し、非正規社員が増え雇用が不安定化して、賃金はどんどん下がり続けました。企業はこぞって人事のリストラを進め、賃金の引き下げを狙って動いたのですが、そのとき狙い撃ちされたのが「研修生」です。研修は労働ではない、つまり最低賃金や時間外割増賃金などを定める労働法は適用されない。日本人労働者は労働法や労働組合に守られるが、外国人研修生はそうした存在ではない。いつの時代も不況期には弱者にしわ寄せがいくのですが、それらを研修生が集め、「時給300円の“研修生”という名の労働者」が社会問題となりました。さらに、こうした悪評は海を渡り、アメリカの国務省(日本の外務省に相当)が「日本の研修生受け入れ制度は、違法な低賃金労働者を国際的に手配する人身売買制度に等しい」と日本政府を名指しで非難したほどです。
こうして2009年、リーマンショック不況が蔓延するなか、外国人研修制度を引き継ぐかたちで生まれたのが「技能実習制度」です。制度改正のポイントは、「労働者ではない(だから労働法は適用されない)研修生」に労働法を適用し、人権問題を解決し、待遇改善を図ることです。在留資格が新たに設置され、「技能実習」というある種の就労ビザを発給し雇用認定することで、労働法が適用されるようになりました。しかし就労とはいえ、昨今の欧州などでな難民受け入れに伴う治安悪化テロ問題などもあって、やはり移民や外国人労働者受け入れ自由化には至りませんでした。「人づくりと帰国担保による国際貢献制度」という看板は維持されたわけです。労働法が適用されることで労働基準監督署が動き、悪質な受け入れ事例はその都度摘発されるようにはなったのですが、送り出し国から中小企業の事業協同組合(制度上では「監理団体」と言います)の仲介を経て斡旋されていく仕組みはそのまま、最低賃金は守られるようにはなったものの、肝腎の「人づくり」のところがほとんどなおざりになっていた。こうした状態を打開すべく検討されてきたのが今回2017年の制度改革、なのです。
「介護」を含む新制度では、厚生労働省職業能力開発局(「人づくり」の所管部局)と法務省入国管理局(外国人受け入れの所管部局)などがリードして、新たに「外国人技能実習機構」が設置されました。この機構は、外国人技能実習生を受け入れる中小企業の事業協同組合に「事業許可」を出す役所です。もちろんこの機関の目的は、外国人技能実習生を受け入れる企業の労働法遵守の徹底を図るとともに、「人づくり」の効果的な取り組みと実際の成果がしっかり出ているかどうかを厳密にチェックすること。これまでの日本の入国管理と監理団体の審査は、地方外局のチェックが緩いところや厳しいところと様々だったのですが、これも厳格な審査を全国統一で行う。人権と労働法と職業訓練(人づくり)と国際貢献(帰国後の成果)を徹底的にチェックする。新たな機構の担当者の「もうグレーで曖昧な、いい加減な制度だなんて、絶対に言わせない!」という決意と意気込みを肌で感じる、そんな制度になっています。
病院や施設の「介護の外国人技能実習生」受け入れは、こうした制度的チェックを経て実現するものです。「確か、何か新制度が出来たんだよね。ウチも外国人入れられるんだよね。先週そんな電話の営業があったんで、その営業マンに今度会ってみるんだよ。いろいろ手続きが面倒だけど、その辺は斡旋会社が何とかしてくれるらしい。協同監理で複数の施設がまとまって受け入れるんだから心強いよね。外国人がたくさん入ると人件費も抑えられて、来年度の決算は今よりちょっとラクになるかな‥」
こんな感じの経営者が、「許可」が降りずにがっかりする、あるいは許可が下りて受け入れたは良いものの、その後の学校並みのチェックに辟易する‥。もし、何か問題が起きて世論が騒ぎ、政府が外国人受け入れを絞ろうと思ったら、「人づくり」体制のハードルを上げチェックを厳格にすればいい‥。
そんな「行方」を思い浮かべるのは、私だけでしょうか。
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