2017/08/25

「療養上の世話又は診療の補助」の構造と目的

「ナースの仕事ってのは基本、“療養上の世話”なんですよ」

 退院支援の問題からナースの仕事に関するネガティブな話になったとき、あるドクターがボソッと口にした言葉です。保健師助産師看護師法第5条には、ナース(看護師)とは「大臣の免許を受けて(中略)療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」とあります。「大臣の免許」とは国の許可、「業とする者」は、仕事で労役を提供して賃金や報酬を受け取る者を意味します。さらに言えば、その診療報酬制度上の業務として、①病状の観察、②病状の報告、③身体の清拭など療養上の世話、④診察の介補、⑤与薬など治療の介助及び処置、⑥検温など検査の介助、⑦患者家族に対する療養上の指導、が挙げられています。冒頭のセリフをドクター目線で考えるなら、条文業務の後者「診療(の補助)」は医師の仕事であって看護師の役割はあくまで「その補助」だから、医師の自分がその都度適確に指示を出せばいい。しかし、前者の「療養上の世話」については、ナースが自ら主体的に取り組んでもらわないと困る(のに、診療上のことに口を挟んできてばかりで、自分がまずしなければならないことを疎かにしている)という日頃の思いかと思います。こう言ってしまうと、ナース側からは強い反論がでるかもしれません。

 このとき私が連想したことは、企業営業部のセールスプロモーション担当が担う定型業務「ルーチン・サービス」と「テクニカル・サポート」についてです。前者「ルーチン・サービス」とは、顧客のペースに合わせるべく顧客の日常(ルーチン)に入り込み、サービスをしながら顧客ニーズを色々と探って、自社の取引を拡大させるための業務を言います。例えば、私の大学の教え子に大手ビールメーカーの営業職になった子がいますが、彼女は日々取引先の酒屋さんに伺っては店の掃除を買って出て、その酒屋の地域で花火大会があるとなれば出店を出すのにボランティアをやり、店主との人間関係を堅く構築して、自らの仕事につなげています。そして、後者「テクニカル・サポート」とは、詳しい商品説明や専門的な業務改善についてアドバイスする業務です。同じく彼女はその酒屋店主から「地域向けの新たな販売促進戦略を考えたい」という依頼を受け、エリアマーケティングやシステムエンジニアリングに関する専門知識・ノウハウを本社の専門家に教わったりしながら、店主に向けては店主のレベルに合わせて分かりやすく、販促戦略のイロハをアドバイスしています。この二つの業務が相互にしっかり回せて初めて、その酒屋から自社ビールの発注がたくさん舞い込む(イコール自分の業績が上がる)ようになるという流れです。

 私は、病院のナースもビール会社の教え子も、やっている業務は基本的に同じ構造と目的を有していると考えています。患者あるいは顧客のルーチンをしっかり把握しニーズを確認して初めて、テクニカル(専門的)なケアを効果的に提供することができる。近年、病院において最大の課題となっている退院支援、とりわけ様々な生活不安から入院が長期化している社会的入院など)高齢患者及び家族の退院支援のためには、病棟で日常業務につくナースが「ルーチン・サービス」にどれだけ取り組むか、そこから情報・ニーズをどれだけ引き出して分析し「テクニカル・サポート」につなげるか、にかかっています。しかし、「療養上の世話」となると、少々ニュアンスが異なってくる。このギャップが様々な問題の本質だな、と考え始めています。

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