2017/09/06

人材も「仕分け」てみる

「話す人が決まってますから、何を議論しても結論は一緒です」

 病院にはいろいろな会議やカンファレンス、打ち合わせがあります。それらミーティングには、大きく二つの種類があります。一つは、決められたポイント項目を確認し、情報を皆で共有するためのもの。例えば、日々の「申し送り」や定例の経営会議などです。情報が的確に隅々まで伝達されるなど、効率的側面が重視されます。メールやテレビ会議システムを使ったIT技術が導入されたり、ダラダラしないよう立ったまま行うなど「進め方・運営の工夫」が求められます。もう一つは、課題や方向を設定し、皆で自由に議論して、何らかの目標や結論を得ようとするもの。例えば、症例検討のカンファレンスやプロジェクトの企画会議などです。白熱した議論に全員を参加させるべく、教育的側面が重視されます。技術的・経営的な課題に取り組ませたり、専門家を招聘したりするなど「討議内容の工夫」が求められます。

 これら「ミーティングの質」は、経営者が最も気にするポイントです。精密なコードで適確な情報がトップからボトムへとスムーズに流れ、組織全体が効率的に整然と動いていく。また、現場のボトムで働くスタッフが気後れせず議論に入り、トップが傾聴して真摯に受け答え、同じ方向を向いた組織全体が活気と熱気に満ちていく。こうした雰囲気が確認できた経営者は、少しぐらい平均在院日数が伸びても病床稼働率が伸び悩んでも、気にしたりしません。こうしたミーティングができているなら、悪い数字も「三寒四温」の「三寒」の一つに過ぎない、と余裕が持てるからです。
 経営者が様々な会議に顔を出し、「ミーティングがスッキリまとまってるね」、「議論がしっかり出ていた企画会議だったね」と満足できていたとしても、しかしながら実は、その背後に大きな構造的問題が横たわっていたりすることがあります。意外に見過ごされがちなポイントです。

 そのシグナルが冒頭のスタッフの、何気ないセリフなのです。経営者目線で見れば、「あのミーティングも、その企画会議も、○○さんのリーダーシップがあったから。○○さんこそ次世代のリーダーだね」。とはいえ、でも現場はそれほど上手く行っていない。多職種協働、チーム医療、全員経営など、そう言えば依然として掛け声だけに終わっている。そんな状況や展開、心当たりありませんか?
 性善説で考えれば、きっと「その○○さん」は患者を思い組織のためにと、一生懸命頑張っていると思います。逆に性悪説で考えれば、「○○さん」は会議で自己実現、自己確認したいタイプが、経営者へのアピール兼ねて発言しているだけでしょう。そのどちらかは、実際見てみないと判断できませんが、そうした状況を全体から打開し、組織の問題を体幹からほぐしていくノウハウがあります。

 是非、会議や打ち合わせのグルーピングを一つでも、「人材のタイプで仕分け」して実施してみて下さい。私が研修のグループワークで、まず最初に行う作業です。常に声を出して会議の場を仕切るリーダータイプだけ集めた会議、リーダーのリーダーシップに協力(あるいは迎合)して場を持たせようとするマネージャータイプだけ集めた会議、リーダーとは一線を画し個人プレーの仕事に走る職人タイプだけを集めた会議、残業はせず仕事は効率化第一で会議では早く終われと押し黙っているワークライフバランスタイプだけを集めた会議です。
 きっと、場の雰囲気やコミュニケーションの展開が、いつもの会議と違ったものになるはずです。「仕切屋」タイプばかりが集まれば、発言のチャンスは減りますが、各自は話す内容のキレを上げようと切磋琢磨します。押し黙るタイプばかりを集めれば、誰も話さない気まずい雰囲気に耐えきれず、誰かが口を開き話し出します。こうして発言の場のレベルが上がり、その場に四方八方から多様な人材が出てくるようになるのです。

2017/09/05

医師と看護師の「働き方改革」

「もう毎日忙しすぎて、とにかく政府に何とかしてもらいたい一心ですね」

 2017年の東京の夏は雨ばかりでしたが、霞ヶ関の労働界隈は非常にホットな夏でした。政府は前年の夏「働き方改革担当大臣」という新ポストを設置し、翌年ことしの春「働き方実行計画」を発表しました(詳細はこちら:首相官邸HP)。そして、この夏、その法律案がまとめられています。法案に対し各方面から反論が出て、それをマスコミが取り上げ、国民的議論になってこじれて廃案‥という流れは隣国のミサイル発射と核実験ニュースにかき消されそうなので、この秋の臨時国会法案提出が順当かな?と考えています。そして国会通過で成立すれば、速やかに周辺のガイドラインや施行細則が整備され、翌年あるいはその次の年度はじめから法施行、新たな「働き方」が始まるということになります。

 「で、何を改革するのか?」ですが、大きく二つ「時間外労働の上限規制」(労働基準法、労働安全衛生法などの改正)と「同一労働同一賃金法制」(パート労働法、労働契約法などの改正)が目玉です。
 「時間外労働の上限規制」については2016年の秋、大手広告代理店社員の自殺が過労死と認定されたことが背景にあります。これをマスコミが大きく取り上げ、長時間労働が社会問題となりました。これらを受けて政府は、時間設定に関する紆余曲折の議論の結果、時間外労働の上限を「原則月45時間、年360時間、特例の場合は年720時間」と設定しました。さらに、従来まで猶予されていた中小企業にも「割増賃金率」を新たに適用し、年収1,075万円以上(「平均年収の3倍以上」という基準)の人なら一定条件の下で長時間労働も可能な「成果型労働制」(高度プロフェッショナル制度)を新たに設けました。
 一方、「同一労働同一賃金法制」については、いわゆる「正規・非正規間の格差」が、長らく社会問題としてマスコミに注目されてきたことが背景にあります。これを受けて政府は、短時間パートも有期契約もいずれも、職務内容が同じなら正規と「均等待遇」にするよう求め、「賃金などの待遇決定は個別の労使決定が基本だが、不合理な待遇差は是正が必要」という理念を掲げた法律を新たに作り、労働者からの裁判が増えることを前提に、各職場に「職務の成果、意欲、能力、経験」の司法判断要素を整備するよう規定を設けるとしています。

 これらは「法制化」つまり法治国家の法律ですから、もちろん医療の現場にも原則例外なく適用されます。
 時間外労働(残業)の上限については、年720時間のほか「休日出勤を含み2~6ヶ月平均で月80時間以内、休日出勤を含み単月で月100時間未満、月45時間を上回るのは年6回まで」とする「過労死基準」も法制度に加えられます。しかしながら医師については、医療現場の現実と応召義務の存在が考慮され、とりあえず「適用除外」となりましたが、「2年を目処に議論して規制のあり方をまとめ、法改正5年後を目処に規制を適用」する方向が示されています。今のところは先送りとなっていますが、今後の「ウルトラC」(例えば、医師を「年収1,075万円以上」の枠に組み入れる等)もあり得ないことではありません。
 一方、同一労働同一賃金の法制化については、「同じ職務で、同じ責任の程度」なら賃金などの条件を「均等待遇」にしなければなりません。女子型雇用の看護師では、出産後に職場復帰する際、子育てと両立させるために短時間の非正規形態を選択する人が多くいますが、これらの賃金条件の実態は「正規と均等待遇」になっていないケースが結構あります。さらには従来からの、いわゆる「正看・准看間の同一労働同一賃金化」問題もあります。これから育児のママさん看護師には朗報ですが、マイナス改定に喘ぐ病院に賃金アップの原資はなく、病院経営者には頭の痛い法制化です。残念ながら裁判は増えていくでしょうし、逆に正規側の賃金条件が下げられたら、大混乱は必至です。

 政府の「働き方改革」は法案整備など着々と進んでいます。医療の現場も、真摯に対応していかなければなりません。(その後のエントリはこちら

「損益計算書」の読みかた

「入ったカネから出て行ったカネを引いた、残りが儲けってことですよね」

 その通りです。損益計算書は、2大「財務諸表」のうちの一つですが(もう一つは、こちら:貸借対照表)、その作成目的は経営成績の明示、つまり「利益」を示すことです。これは企業も病院も変わりありません。「病院は営利追求を目的とした組織ではありません!」とか、経営学者イジメはなしです。病院は確かに非営利組織ですが、社会の中に存在する立派な「法人」、皆さんの病院の名称も「○○医療法人○○会○○病院」となっているはずです。法的に人として認められ、様々な権利を与えられて活動をしている訳ですが、同時に義務も果たさなければならない。日本国憲法「三大義務」のうちの二つ、「勤労の義務(しっかり働いていますか?)」と「納税の義務」の後者を果たす上で、その納税額を決めるのがこの損益計算書です。利益が出て黒字だったらそれなりの税額を、利益が出ず損失ばかりで赤字だったら最低限の税金を、法人として納税しなければなりません。それゆえ非営利組織でも、会計期間の利益を算出し税額を確定させるために、損益計算書をしっかり作り込まなければならないのです。

 税額確定のついでと言っては何ですが、損益計算書は、自らの利益(あるいは損失)が、具体的にどのような活動によって生じた利益(同じく損失)なのかを、背景や要因ごとに分類して整理しているところがミソになっています。利益が上がる背景や要因は色々あります。「皆さんが頑張ったから」だけではありません。例えば、「何を頑張った」によって利益は変わります。DPCの点数の高い患者さんのケアで頑張ったらグンと上がるし(医業収益)、低かったら余り上がりません。他にもあります。例えば、病院の駐車場が市街地にあり利用者が多かったりして、その料金収入が好調だったら上がるし(医業外収益)、病院が持っている土地を売却したりしたら上がります(臨時収益)。

 一方、利益が下がる背景や要因(コスト要因)は、医療従事者の皆さんにとってもっと重要です。例えば皆さんが、毎日の衛生材料を無駄に使っていれば下がるし(材料費)、働かない人にたくさん賃金を支払えば下がるし(給与費)、リネンなどの業者さんが料金を値上げすれば下がるし(委託費)、稼働しない高額機器がたくさんあれば下がるし(設備関係費)、大勢の人が研修に行けば下がるし(研究研修費)、人材が採れないからと寮としてマンションを借りたりすれば下がります(福利厚生費:経費)。他にも、皆さんのお仕事に関係ないところにもまだまだあります。理事長がクルマを買い換えれば下がるし(減価償却費)、病院が銀行融資を受けて病棟を建て替えたりしていて、その利息が高かったりしていれば下がるし(医業外費用:支払利息)、病院が病棟拡張用に土地を持っていたりしたけれど、やっぱりやめて売ったときに売値が買値を下回ったりすれば下がります(臨時費用)。

 近年では、診療科などの部門別に損益計算書を作成する病院も多くなっています(セグメント情報)。病院全体では利益が出ていても、内科、外科、小児科などに分けて見るといろいろと違いがあったりして、ただでさえ仲が悪い診療科間の「争いの種」になったりしています。また、多くの病院には関連のMS(メディカルサービス)法人があり、病院本体の利益や損失が、それらに移転されているケースもあります。ですので、これら関連法人の損益計算書もチェックしなければなりません(連結会計)。

2017/09/04

作業には、クリティカルな「順序」がある

「退院間近になって介護保険申請とか、普通ありえないでしょ」

 既婚者・子ありの「ママ・ナース」を研修で集め、自宅でカレーライスを作る話をします。冷蔵庫のなかスッカラカン、まずは買い出しにスーパーに行き、とりあえずカレーの材料は一通り揃えた、とする。子ども達はお腹をすかせて待っています。そこで「さて、最初の作業は何ですか?」と質問します。病院ではナース、自宅ではママをしている彼女たちの答えは十中八九、当然のことのように「そりゃ先生、まずお米研いで炊飯器のスイッチをカチャ、に決まってるでしょ」。

 「大正解です」と軽く褒め称えた後、私はダメな例として、大学のゼミ夏合宿で大学生がよくやるパターンについて話をします。湖畔や山林のコテージから、男子を中心にクルマに乗って買い出しに行って、女子は合宿所に残ってキッチンの確認。買い出し班が戻ったらテーブルに材料を広げ、男子女子ワイワイがやがや肉を切って、危なっかしい手つきで野菜を切って、キャーキャー言いながら鍋で炒めて、水を入れて煮込んで、「俺、これ好き」だとか何だとかでカレールーを投入し、調理開始から1時間強。合宿所にカレーの良いにおいが立ちこめ、お腹が減ってイイ感じになってきたところで、「あ、ご飯炊くの忘れた」。そこから慌てて米を研いで、炊飯器でご飯ができるまでプラス1時間弱。空腹が我慢できず、夜の飲み会用のポテチで飲み出す男子多数。結局、買い出しからカレーライスにありつけるまで、かかった時間は、買い出し30分+カレー完成1時間強+炊飯1時間弱の、計2時間半。私はそこで、「大学の合宿なら笑って思い出だけど、就職した先の会社でコレやったら、そのうち左遷だよ」。

 研修はママ(ナース)の集まりですから、「全く大学生は子どもよねぇ」といった感じなのですが、私はここぞとばかり、「皆さんの日頃のお仕事では、そういうのはゼロ、絶対ありえませんよね?」と問い正します。例えば、大腿骨頸部骨折の患者さんが、手術して、リハビリして、カンファレンス開いてドクターの退院・在宅療養OKが出た後で、ワーカーが自宅の家屋調査に行って、家のトイレや階段のものすごい段差を発見する。「ご家族は、段差とか無い。ゼンゼン大丈夫って言ってたのに!」とか怒ってみても後の祭り。リハビリ目標は再設定、段差解消のリフォームを大工さんに発注したら、見積もりの現場確認アポで1週間とか言ってる。「もっと安い業者あるかも」で複数に相見積もり取ってプラス1週間。設計図と総額固まって発注したと思ったら、今度は下請けの職人が忙しくて予定が立たず、そこから1カ月待ちなんだとか。かと思えば介護保険申請の手続きを忘れていて、言った言わないの騒動むなしく、さらにプラス。プライマリと退院支援のナースの間で責任の擦り合い、リハのOTとMSWのチームワークもなく、気付いてはいたけど、ともに放置。患者に聞いてもラチ開かず、結局何だかんだで、2週間で退院できる患者の在院日数1カ月半。看護部長と事務局長は相当のオカンムリ。ご家族らは何処吹く風で、「長く入院できて良かったわよね-。やっぱり病院は安心だし」とご満悦。ナース曰く、「だってウチ、多職種連携とかダメな病院だから。昔はそんなの良くあったし、似た患者で2カ月入院とかもありましたよ」。

 カレーライス作りに戻って、今回のまとめです。「炊飯」の仕事の「順序」を守るだけでの工程全体が効率化され、総時間は短縮できるということ。肉や野菜の仕込みや煮込みの作業は、後半の「炊飯1時間弱」のご飯が炊きあがるまでの間に処理できる。つまり、これらは「炊飯」作業に従属する作業である。このときの「炊飯」作業を「クリティカルタスク(最重点管理作業)」と言い、これをきちんとこなすことで、ゼミ夏合宿の現実の「計2時間半」より約1時間短縮できます。経営学では、この「30分+1時間弱」にシュッと炊飯作業(クリティカルタスク)をメインに最適化した工程を「クリティカルパス(最重点管理工程)」と言います。そうです。皆さんが普段使っている「クリニカルパス」の原型こそ、このクリティカルパスなのです。

医療分野における外国人労働者受入れ「制度の現在」

「これから、技能実習とかで外国人労働者が増えるんですよね?」

 医療・介護分野への外国人労働力受け入れが、ゆっくりと進んでいます。島国の日本にとって、外国人労働者問題は基本的に「制度論」です。ヨーロッパのように地続きだと、難民等の問題はその流入を止められない「現実論」(来ちゃうんだから仕方ない)なのですが、日本の場合、自然的国境として「海」があるので、空港や港での入国管理が可能だし、入国後も外国人登録などによる在留管理が徹底できます。かつてのバブル時代は、観光ビザで来日して働いたり(資格外就労)、ビザ期限を超えて働いたり(オーバーステイ)、風俗や飲食など地下経済ビジネスで働くケースの取り締まりが徹底できず、いわゆる「不法就労外国人」(“不法”という表現は適切ではないという意見がありますが、解りやすさを第一に使用しました)がたくさん滞在していました。ピークは1990年代半ばで、30万人弱の不法滞在者がおり、そのほとんどが就労していたとみられています。

 「制度論」というのは、島国日本の外国人労働者数は制度を厳格に運用すれば減り、制度を新たに設定すれば増える、ということを意味しています。ちなみに2017年現在の不法滞在者数は約6.5万人、入国管理局(「ニュウカン」)による入国管理「制度」に基づく取り締まり強化を背景に、ピークから大きく減少しました。その一方、新たに外国人労働者を受け入れる制度が設けられれば、その「制度」に基づき増加します。医療従事者の皆さんなら誰もが知る「EPA(経済連携協定)外国人看護師・社会福祉士」は、この「制度」そのものと言えます。医療関係のこうした「制度」ができる分だけ、医療分野の外国人労働者は増加していくという構造です。

 実際に、制度の変更とデータの動きを追って整理してみましょう。21世紀に入り、日本とフィリピンやタイなど東南アジア諸国とのFTA(自由貿易協定)やEPA交渉が盛んに行われていました。その過程で2004年、日本とフィリピンとの間でEPA交渉が決着し、2006年をメドにフィリピン人看護師を受け入れる合意がなされました。当時、日本のフィリピン人労働者と言えば、多くが「じゃぱゆきさん」(日本の飲食・風俗産業で働く女性労働者)でした。もちろん日本の入管法は単純労働者の受け入れを認めていませんが、フィリピンにおいてダンサーの資格を持つ「芸能の専門職」が「興行ビザ」(プロスポーツ選手と同様)で入国するケースが横行していました。つまり、ダンスを演じる目的で入国した者が飲食店等で給仕をする「資格外活動」です。しかも、その舞台は風俗産業など地下経済で、そうした流入は日本政府としても看過できませんし、フィリピン政府としても自国民の出稼ぎ先が他国(日本)の地下経済に集中することは人権保護の観点からも看過できません。他方、フィリピン人女性の出稼ぎは「ダンサーという名目の単純労働者」が主流なのでは決してなく、欧米や中東地域などに「看護師という専門職」を大量に送り出し、高い評価を得てきていました。両政府の間には、日比間の国際労働移動の流れを適正化したいという意識が明確にあったと考えています。その後の展開は、法務省の入国管理統計(こちら)みれば明らかな通り、フィリピン人女性の不法滞在者(多くは飲食・風俗産業の不法就労者)数は「看護師受け入れのメドとした2006年」から入管局の摘発が厳しくなり、急激に減少しています。とはいえ実際の日比EPA発効は、日本からのゴミ輸入問題等でフィリピン上院での審議が滞り、当初のメドからほぼ3年遅れた2009年12月となりました。不法就労者が摘発で激減する一方、看護師の送り出しが遅れたことで、フィリピンのGNPの約1割を占める「海外出稼ぎ者からの母国送金」が減少したのも、これら両国間の制度の進捗による「制度論」の影響と言ってよいでしょう。

 そして2017年、日本では技能実習制度の改正が行われ、新たに「介護」分野の受け入れが開始されることになりました。特養の介護業務や病院の看護助手分野などでの受け入れが想定されています。現在、その「制度」設計の仕組み作りが行われていますが、「制度」の目的はあくまでもインターン実習なので、誰がどのように教育し、成果をどう評価するかがポイントになります。とはいえ、この制度においても現実的な意味は他にあり、医療介護ともに報酬のマイナス改定が続くなか、収益減とコスト増に喘ぐ施設・病院経営者への「代替経営支援制度がコレ」であることは、当事者の方々も否定し得ないでしょう。ある意味これも、立派な「制度論」なのだと思います。

「医師のキャリア」の全体像

「新卒入社でずっと定年まで、というわけにはいかないんですよ」

 新卒一括採用、年功序列、終身雇用、定年後再雇用。これぞ、日本型雇用慣行の典型コースです。文系理系を問わず大卒正社員のサラリーマンなら、「一生のうち転職経験ゼロ」という人も少なくありません。最近でこそ雇用流動化で転職経験者も増えてきましたが、安定した業界の企業に正規採用されれば、「一生1社」こうしたコースで完全リタイヤまで40~50年、働き続けます。大卒就活生の近年のトレンドは、就「社」じゃなくて就「職」、大手に限らず中堅・中小。彼らに言わせれば、「大企業だと後輩がどんどん入って来るので人材豊富。それゆえリストラや出向があったり、定年後の再雇用がなかったり」するので、「少しぐらい条件が悪くても、自分のやりたい仕事にこだわり会社を選ぶ。中小だと人材は貴重なので大事にしてもらえるし、定年関係なく一生働き続けられる」。有名大企業に就職して合コン三昧!転職してステップアップ!なんて今は昔、あくまでもワークライフバランスが基本、その実現のために都合が良い会社を選ぶスタイルが支持を集めています。

 さて、医師のキャリアのパターンは如何に。医師のキャリアの全体像については、全国の民間病院の経営者団体、全日本病院協会が行った大規模アンケート調査(詳細はこちら:全日病PDF)が大変参考になります。この「医師の就業動向調査」(2015)は全国の医師3,915名から回答を得た、まさに直近の大規模調査です。医師のキャリアの全体構造を示した一つのグラフ、インターネットで公開されている報告書PDFの7ページ(全27ページ)「卒後年数別の主業務の勤務施設」を見て下さい。20代半ばの「卒後1年目」から定年前後の「卒後40年目」まで、それぞれの年齢の時に働いていた「勤務施設」を追跡調査したパネルデータ(個人別の回答を時系列に並べたモノ)の集計結果です。

 このグラフを見ると医師のキャリアのパターンは、大きな色が三つ分かれていて、多くが「一生3院」となっているようです。大卒サラリーマンのように、最初に就職したところで一生働くような人はごく少数派で、まずキャリア初期に若い人たちの大量病院移動があり、キャリア中期に少しずつ、もう一度その先へと移っていくパターン。その3つも属性がほぼ決まっていて、最初はほとんどが「大学病院」に入職(研修医として働き始め)、キャリア初期に過半数が「公立病院」へと大量移動(大学の医局から派遣され)、その後キャリア中期にかけて五月雨式に「私立病院」へと移っていき(医局から離れ自由に移動し)、卒後20年目のキャリアの丁度真ん中で私立病院勤務が過半数を超えています。つまり医学部卒業後は、「大学病院から公立病院、そして私立病院」という「一生3院」が医師のキャリアの全体像となっています。また、20代後半から30代前半のキャリア初期と中期の間には、大学院に戻るアカデミックなキャリアや、海外勤務や留学などグローバルなチャレンジを選択する医師もいます(グラフ「卒後4年目」から「12年目」辺りまでの、上部が凹んだ部分)。こうしたキャリアはテレビの医療ドラマでは良くある話ですが、とはいえ現実では少数派で30歳前後に数%見られるものの、キャリア中期にかけて徐々に少なくなっていくようです。

 この調査結果は、大規模なパネル調査とはいえ、民間病院に勤務する常勤医を対象としたものです。研修医からリタイヤ直前までのキャリア全体を俯瞰する上では非常に有効な調査ですが、もちろん卒業後ずっと大学に残っている医師や開業する医師もいます。それら様々なデータを総動員させ、医師のキャリアデザインについて研究を進めていかなければなりません。

2017/09/02

地域包括ケアの「包括」に相応しい英語は何か?

「別に何でも良いんですけど、結局どれなんですか?」
 
 いま医療従事者にとって「地域包括ケアシステム」は、非常に重要な概念となっています。にもかかわらず病院の皆さんから良く聞くのは、大多数の本音だと「実は真面目に考えたことないんです。結局、地域包括ケアって何なんでしょうか?」で、他方、MSWやケアマネジャーなど高齢患者相手に日々ガチンコで取り組んでいる方々に言わせれば「システムを考案された先生方には大変失礼ですが、実際そんなモノ(システム)は存在しないと思うんです!」というものです。結局これら両極の二つを合わせて、「地域包括ケアって何?」がこの手の議論の、永遠のメインテーマとなっています。

 専門外とは言え、いちおう教授なので、蘊蓄を「たれ」なければならない機会があったりします。そこで良く持ち出すのが、理解のポイントになるであろう「包括」の意味です。日本語で辞書引いても良くわからないので、それなら英単語!となるのですが、専門の学者や理事長先生が良く仰るのは、「地域包括の“包括”は、“comprehensive(全部を含む)”ではなく、“integrated(統合された)”である」というもの。しかしながら、病院研修の私の教え子さんたちは「余計イミフメイになった‥」という顔をするので、私は理解優先でいい加減に、「ラーメンのトッピング全部のせ」的なのが“comprehensive”で、「子どものブロックおもちゃの合体ロボ」的なのが“integrated”‥なんて説明をしています。

 地域包括ケアシステムは、体系だった全体を持つ“integratedケアシステム”です。言わば合体「トランスフォーマー」的なロボットの頭、胴体、手足の各パーツが一つ一つ小さな「レゴ」ブロックなどでキレイにカチッと仕上がっていて、胴体の上に頭のパーツ、両脇に腕のパーツなど、それぞれが然るべきところにガチャン、シャキンと組み上げられていくと、「元々はそれぞれ小さなブロックだったのに、あらまぁ不思議、格好いい立派なロボットになって敵を倒す‥」となる。その勇姿漲る「合体ロボット」こそがわれわれが求める「ケアシステム」で、それには厚生労働省から国民に向けて明確なイメージが提示されており、それが「“住まい”を中心に、医療と介護と生活支援・介護予防が三方からケアしあう」あのポンチ絵(厚生労働省「地域包括ケア研究会報告書」2013:こちらの政府HP)となるわけです。つまり、私流の合体ロボ解説で言えば、胴体が住まい、右手が医療、左手が介護、両足が支援と予防(頭になるのは患者・家族か?ケアマネか、SWか?)で、「2025年の団塊世代後期高齢者化時代に備えるフォーメーションこそ、この地域包括ケアだ!」というのを「永遠のメインテーマ」に対する回答としています。

 さらにもう一つ、現実的なありようを表現する英単語があるのではないかと思っています。“comprehensive(全部のせラーメン)”と“integrated(一つになった合体ロボ)”の中間にあるであろう、発展途上にある地域ケアの現実を含ませた単語がそれです。英語嫌いが言うのも何なのですが、“integrated”の手前には、国際援助ビジネス絡みで近年ちらほら耳にする“inclusive(人・モノ・考えを何とか広く含んだ)”な段階があり、多くの現場の実態はほとんどこのレベルにある、というのが私のイメージです。“inclusive”だと「持続的で意味があるなら、それもアリ」的な鷹揚なニュアンスが加わってきます。合体ロボの例で言えば、パーツ自体は現場なりに思い思いそれぞれ勝手にカッチリ固めてきてはいるのですが、頭でっかちだったり無かったり、機能が被っていたり互いに干渉していたり、組み上げ方が逆さまだったり中途半場だったり、何かがスッポリ抜け落ちていたり‥と、とても“integrated”と言えるような格好いい代物では決してない。でも何とか元気に動いている。日本では廃車同然のクルマが部品適当に組んで、屋根なんか吹っ飛んだままアフリカで現役バリバリ。途上国で、援助支援をしながら営利も求めるBOP(ベース・オブ・ジ・エコノミック・ピラミッド:こちらの政府HP)ビジネスのような、そんな、“inclusive”なケアシステムです。

 地域医療と介護の現場には、非営利から営利までごちゃ混ぜのまま、元々そうした主体的な各パーツが諸々既に活動していて、たまたま偶然パーツ同士がパチンとはまり、完全無欠に仕上がった(integrated)ロボットとまではいかないけれど、敵から何とか身を守り、地域を支えてきている仕組みがある。こうした途上国的雑然(inclusive)を醸し出す、かなり不格好な“inclusiveケアシステム”を、元々あったケア主体の固まりの機能と地力を活かしつつ、環境と制度に合わせてどうシェイプ、リメイクしていくか。さらに、どう効率化を図っていくか。このプロセスが「地域包括ケアシステムの構築」である、と講義で説明している現在です(結局解りにくくてすみません)。