「ホント経営学ってカタカナ多いですよね。医学もそうですけど‥」
「こちらにもありますけど、カタカナばかり‥。何となくイメージはありますが、実際に何をどうするのかとか全く解りません」。と言われているのは、経営戦略論で頻出するキーワードです。イノベーション(技術革新、新機軸創造)、マーケティング(顧客開拓、市場適応)、リストラクチャリング(事業再構築、合理化)、アウトソーシング(外部委託、業務請負)など。確かにカタカナばかりですね。先のエントリのマトリクスでは、「問題児」でイノベーション、「看板」でマーケティング、「金のなる木」でリストラクチャリング、「招かれざる客」でアウトソーシングと整理していますが、医療従事者の皆さんには流石に解りにくいだろうと思います。ここでは、カタカナそれぞれの意味と用法について、マトリクスのコードネームごとになるべく解りやすく説明していきましょう。
「問題児」ゾーンには、その病院の「件数増・低収益」患者が集まっています(マトリクスの4ゾーン別に仕分けた結果はこちら:以下同じ)。これらの患者対応には抜本的なイノベーションが必要です。患者が押し寄せているのに点数が確保できないのですから、頑張れば頑張るほど足下が沈んでいくパラドックスに陥ってしまうのです。マトリクスにある通り高齢者の急増を背景に、認知症患者も肺炎患者も日々増えるばかり。これらに立ち向かうイノベーションには、例えば「ユマニチュードによる認知症ケア」や「肺炎クリティカルパス+退院支援パスの整備」などがあります。認知症患者の増加で対応する医療従事者が消耗しないように新たな技術を貪欲に取り入れ、また、肺炎患者の退院支援に戸惑いズルズルと在院日数を伸ばしてしまわないような新たな仕組み(機軸)を的確に整備して行く。「新たな技術」や「新たな仕組み」こそ、こうした分野に必要なイノベーションなのです。
「看板」ゾーンには、その病院の「件数増・高収益」患者が集まっているのですから、ここで必要なのは「とにかく掻き集める」活動です。増やして、増やして増やしまくることが、そのまま収益増につながるのです。しかも、社会に患者は増加中。文字通りの新規開拓、顧客創造、販売促進、イメージ通りのマーケティングです。例えば、整形外科を擁する回復期病院なら、大腿骨頸部骨折や脳梗塞の患者を集めるためにMSWを多数マーケティング部門に再配置し、DPCデータで近隣の骨折や脳血管のオペ実績のある急性期病院をリストアップして、件数が多く距離が近い病院から順に「顔の見える」営業を仕掛けていきます。こうした活動を、ターゲットマーケティングと言います。私の経験では企業よりも病院のほうが、こうしたマーケティングに向いているようです。企業の営業だと競合相手も多く価格設定の自由度があるので競争に打ち勝つのは非常にシビアな世界ですが、地域医療圏内の病院立地が一定程度管理され診療報酬制度で価格が統一されている医療の世界では、過当競争が限られているからではないかと見ています。
「金のなる木」ゾーンには、その病院の「高収益・件数減」患者が集まっています。意外に思われるかもしれませんが、これらの患者対応には継続的なリストラクチャリングが不可欠です。ピロリ菌感染率の低下に伴って胃がん患者が減少するように、将来的にはどんどん市場が小さくなる分野が存在します。とはいえ点数は高いというのがこのゾーンなのですが、病院組織内での仕切りは多くの場合、成果主義的な実績優先かつ近視眼的な独立採算の医局縦割りで、「ウチの診療科は利益出しているのだから多少ムダがあっても許される」とばかりに、合理化圧力が掛かりにくくなる傾向があります。リストラなんて以ての外で、まさしく「金のなる」のは事実であるものの所詮「木」でしかない存在に、神木(しんぼく)のように崇めて建造物で囲むが如く多額の予算を投じている。むしろ、このゾーンの医療こそ、将来を見据えたリストラクチャリングが必要なのです。こうした高収益部門こそ徹底したリストラでキャッシュをどんどん捻り出し、その捻出分をその他の部門の将来のための戦略予算に大量供給していく。これぞ「まさに金のなる木」と言えるでしょう。
「招かれざる客」ゾーンには、その病院の「低収益・件数減」患者が集まっています。応召義務があるので、もちろん診察も治療も拒まず対応しなければなりませんが、報酬点数が低いということは、行政上の視点でも「病院以外の医療機関で看るべき患者」と判断される分野と言えます。ここで行うべき活動は「看板」ゾーンにおけるマーケティングの逆、つまり地域の医療連携を広げつつ、徐々に患者を地域のクリニックなど連携先へと外部委託(アウトソーシング)していく活動です。こうした病診連携を進めつつ地域の後方支援病院として地盤を固めていく。地域の介護施設に対しても、例えば褥瘡処置の技術を積極的に移転するなどして施設の看護力を引き上げ、施設の重症患者収容力を高めていく。ポイントは、クリニックにせよ施設にせよ、病院との“Win-winの関係”が構築できるように仕向けていくことです。
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