「上司に、ドラッカーを読めと勧められました」とか、良く聞きます。もちろん、アメリカの著名な経営学者P・F・ドラッカー(1909-2005)の本もオススメなのですが、大学の経営学部的にはC・I・バーナード(1886-1961)のほうがメジャーです。経営管理論のメインコンテンツこそ「バーナード理論」なのです。どちらかと言うとドラッカーは顧客志向のマーケティングに関する著作が有名で、人の上に立つ管理職について研究した本となると、やはりバーナードでしょう。バーナードの著作(『経営者の役割』)は、経営管理論の古典中の古典です。
先のエントリ(こちら)では、私なりに「チーム医療」の定義づけを行いました。主治医と患者担当のプライマリ看護師、病棟師長、担当リハビリスタッフ、MSWなど多職種が、共有化された治療計画(クリニカルパスやプロトコル)のもと、個々の専門的知識と労働力を投入(インプット)して結果(アウトプット)を出し、それらを一定基準(中間アウトカム)で接続させて、最終的な成果となる退院基準(最終アウトカム)へと導く。その治療計画上での、参画メンバーそれぞれによる一連のタスクのつながりを「チーム医療」としています。先のエントリの表現を使えば、「中間アウトカムでつなげた複数のパスの連立方程式を、滞ることなく的確に解く」こと、これがチーム医療です。
さて、バーナード理論を踏まえると、チーム医療はどう管理されるべきなのか? 同理論の要諦は「有効性と能率」という2つの概念にあります。
バーナードが言う「有効性」とは、目的達成に有効なインプットの技術レベルのことです。つまり、技術的かつ具体的な処置や薬剤の使用などスキル全般を意味し、インプットの有効性が高ければしっかりとしたアウトプットが出せます。さらに、チームで協働するために必要な基準(中間アウトカム)があるので(例えば、転科基準を取り上げたこちらのケース)、その行為の達成目的は必然的にアウトカムとなります。チームメンバーのそれぞれが、知識と経験と労働力の完璧なインプットを行って、あっさりとアウトカムを引き出すことが出来る技術。そうした技術を有するメンバーが多ければ、それは「組織の有効性」が高いチームです。いわば最も有効性が高いのは、「どんな状態でも焦らず成果を出せる、実績十分のベテランを揃えたチーム」となるでしょうか。
ごく当たり前の話ですよね。問題は次です。
バーナードが言う「能率」とは、成果目的達成に取り組むチームメンバーの意欲の持続性(モチベーション維持)のことです。通常「能率」概念は、インプットに対するアウトプットの比率を意味します。少量のインプットだけで大量のアウトプットを産出することを、われわれは「能率的」と表現します。しかし、それだけでは、組織が求めるアウトカム水準に達しないアウトプットを、個人が勝手に、「能率的」に量産させてしまうかもしれません。そこでバーナードは、インプットとアウトプットではなくアウトカムと個人のモチベーションを軸に据え、この「能率」概念を全く異なったものに仕立てています。インプットすれば一応のアウトプットは出るのであって、最終的な目標はあくまでもアウトカムなのだけれども、そのアウトカムは達成できることもあるし、達成できないこともある(クリニカルパスではこれをバリアンスと言っています)。そこでの現実問題は、仮にアウトカムが達成できなかった時、インプットを行ったメンバー個人のモチベーションが下がってしまうことであって、たとえアウトカムを達成できなくても(通常、アウトカム未達ならガッカリ意欲喪失してしまうところ)メンバーのモチベーションが高く維持できるなら、それこそが「組織の能率」の高いチームだ、と考えるのです。いわば最も能率的なのは、「少量のアウトカムしかなくても腐らず、有効なインプットを大量に投入し続けるチーム」となるでしょうか。
管理職の役割は、チームの「有効性と能率」を引き上げることです。看護師長になったのなら、病棟におけるチーム医療の「有効性と能率」を引き上げなければなりません。技術力の低いままアウトカムが出せずに腐っているプライマリばかり(WLBを盾に現場から逃げようとするのも同じ)、では師長失格なのです。パス上のアウトカムを確実なものとするために、チームメンバー個々が行う「知識と経験と労働力」というインプットの技術レベルを可能な限り引き上げるには、何をどうしたら良いのか。例えば、どんな訓練や振り返り、さらにはどんな情報共有を行うべきか(外部の定型的な研修やコンサルティングに、安易に依存していませんか?)。パスのアウトカムが達成できずバリアンスとなっても、関係メンバーのモチベーションを維持し続けるには、何をどうしたら良いのか。例えば、どんな声かけや手当、さらにはどんなバリアンス対策を講ずるべきか(半ば軍国主義的に、現場スタッフへ自己犠牲を強要していませんか?)。
「何となく解ったような、まだ腑に落ちないところがあるような、モヤモヤした感じがあるので、バーナードの本、早速買って読んでみます!」と、皆そう仰るのですが、私はオススメ致しません。というのは、バーナードの本は超難解!!だからです。
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