2017/08/29

経営を取り巻く「ポートフォリオ」

「ポートフォリオって、株とか投資信託のヤツですよね?」

 医学部をはじめ大学教育における「ポートフォリオ」は教育学で語られるものですが(以前のエントリを参照)、経営学ではかねてより、そして今も幅広く使われている概念です(以下4つ)。繰り返しますが言葉の意味は「紙挟み」、皆さんが文書をまとめるとき普通に使う「クリップ」や「クリアファイル」のことです。

 まずは「投資ポートフォリオ」。株でも外貨でも、投資家は一つに全額ぶち込むことなどいたしません。10億円あったら運用は「日本株に25%、米国株に25%、日本国債に25%、土地に25%」といった感じで、リスクの分散を図るのが普通です。このとき、「日本株25%の内容(企業銘柄や価格)やその後の推移(儲け額の実績)を銘柄別などに文書化して一つのクリアファイルに、同じく米国株25%の内容と推移をまとめて一つのクリアファイルに‥」というように、4つの「紙挟み」(ポートフォリオ)で整理して、全体の投資活動を総括する手法、がこれです。

 次に「製品ポートフォリオ」。たとえ老舗の大手メーカーでも、一つのヒット商品だけで長らく収益を維持することなどできません。いずれ消費者に飽きられたり、競合製品に食われたり、事故が発生して法律が変わり生産できなくなったりするリスクがあります。それゆえ「主力製品の売上げが一定の比率を超えたら、あらかじめ決められた数の新製品を投入する」といった感じで、新製品の研究開発にチャレンジするのが普通です。もちろん、新製品も色々あって分野や方向性が異なったりするでしょう。これを「主力」や「新規○○系」、「××系」などグループに分けて文書を整理し、全体の製造・営業・研究開発活動を総括する戦略手法、がこれです。

 そして「雇用ポートフォリオ」。企業の雇用形態は多様化しています。病院同様、スタッフ全員が「正社員(正規職員)」というのはもはや過去の話で、その他にも「契約社員」「派遣社員」「フルタイムのパート(主婦など)」「パートタイムのアルバイト(学生など)」「嘱託社員(定年到達者のパート再雇用)」といった様々な処遇の人たちが働いています。もちろんそれぞれにメリット、デメリットがあります。例えば、正社員は長期安定的だが高コスト、パートは低コストだが不安定、などです。企業は業種のインフラや職種のマーケット事情を勘案し、各雇用形態別に戦略を組み、それぞれの条件や経緯やコストなどをグループに分けて文書を整理し、相互の兼ね合いや雇用構造全体を俯瞰・総括する手法、がこれです。

 最後は、ちょっと視点を変えて「ポートフォリオ労働」。ITエンジニアやコンサルタント、さらにはデザイナーやモデルなどフリーランス志向の専門職は、自分の能力・資格や実例・実績などを分野別にエビデンス付きで文書にまとめ、仕事をマッチングする時に使う「自分自身を売り込むパンフレット」を持っています。これを「ポートフォリオ」と呼び、こうした「パンフ片手に職を転々とする専門職」を「ポートフォリオ労働者」と言います。最近は紙のパンフより、ネット上のポートフォリオサイト(デザイナーやモデルの公式サイトなど)が主流です。

 「神原名医紹介所」が「大門未知子」の華々しい実績をエビデンス付きで分類し、盛々の価格を添えてクリップでまとめ取引先別の営業ツールとして、所長が大きい黒鞄に入れて持ち歩く。それが「ポートフォリオ」。しかし、大門だけではリスキーな(売上が安定しない)ので、「城之内」だけでなく「加地」さらにはもっと若手も入れてリスク分散を図る。これが「ポートフォリオ戦略」です。

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