2017/08/26

人材紹介料支出と国民皆保険制度

「人材ビジネスに、国民のカネがたくさん流れちゃってるんですけどね」

 医療機関の従業者定着率は、他の業界に比べて極端に低くなっています。逆に言えば、雇用の流動性が著しく高いということです。高齢社会を迎え慢性的な人手不足かつ労働条件が過酷で、基準看護など採用配置が組織収益にリンクしており、資格や認定制度が整備されていて職業能力が判断しやすく、さらに労働供給地と需要地が偏在している(いわゆる「西高東低」問題など)ので、労働移動が生じやすい。これだけ低定着率(高流動性)の条件が揃っているのですから、無理もありません。

 さらに、2000年代から急激に進んだ政府の労働市場自由化政策によって、民間の人材紹介会社が雨後の竹の子のように生まれました。ほぼ同時期に、医学部卒業後の医師臨床研修制度が始まり、これによって大学医局の人材斡旋機能が空洞化してしまいました。また、看護など医療系大学学部が急増したもののキャリアセンター(かつての「大学就職部」)の整備が追いつかず、インターネットに頼らざるを得なくなり、医療分野の労働市場はネット情報と若い人材が縦横無尽に動き回る、無秩序な世界になってしまいました。ビジネスの自由化と大学機能の空洞化とインターネットの普及拡大がいっぺんに来たのですから、これまた無理もありません。

 そんな世界で病院など求人側の医療施設は、巷の人材紹介会社に、為す術もなく引っかき回されています。連日の度重なる営業。「医療を良く知らない」営業担当が、台本を覚えたかのような電話を執拗にかけてきます。実際、私からすると、医療の人材紹介も株式の投資信託も土地の賃貸アパート運用も高齢者の健康食品も、全てがほぼ同じ営業スキルに見えます。それでいて紹介手数料は高く、定着は短く、投資分が全く回収されない。紹介料率が年収の30%なら、1000万円の医師の紹介を受けて300万の紹介料を払って、持ち場に就いて仕事を覚えてもらい、やっと戦力になったか(300万分やっとここから回収できるかな)と思ったら「辞めます」。個人的な事情があって辞めるならまだしも、裏でかつての人材紹介会社が手を引いていたりする。紹介料収入は紹介件数に比例するので、一人の医師を何回も転職させれば、人材ビジネスとしての効率は上がる。ポイントは人材の回転率引き上げです。私が営業マンだったら、そうします。そして、その分の割を食うのは、紹介料を支払う求人側です。

 周知の通り、国民皆保険制度によって、全ての国民が何らかの公的保険に加入しています。そして、それら国民は毎月、勤務先の会社に折半してもらうなどして保険料を支払っています。病院等での医療費はここから支出されますが、高齢化の医療費高騰で保険料だけでは足りず、国と自治体がさらに「公費」を投入しています。もともと雇用流動性が高い市場で、人材ビジネスが生産性を追求すると、求人側の医療機関そしてそこに医療費を支払う国の制度が高コスト化していく。大きなジレンマです。

 

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