2017/10/27

多職種「職務職能表」を作ってみる

「ウチにもありますよ‥。機能評価の時に、他のをコピーして作ったものが」

 医療の経営資源の中心は、間違いなく人材です。時間管理を軸とした「リソース管理」に関するエントリ(こちら)でも、そう強調しています。自院の人材が、雑務に振り回されることなく、また負荷が掛かりすぎないよう、持続的な活動継続のために人事労務管理を行うことこそ、医療機関の管理職の最大の仕事と言えます。

 しかし、それ以上に重要なことがあります。「経営資源」なのですから、その資源(人材)がどのくらいの能力を持ち、どのような機会でどう実力を発揮できるのか把握し、管理できていなければなりません。建設現場の現場監督が大型建機を取り合うように、能力ある経営資源が現場に少なければ、病棟など現場の日々の仕事がこなせなくなってしまうからです。また、建機のような経営資源は、文字通り機械ですからその保有能力が予め決まっていて等しく徐々に摩耗していくわけですが、人材という経営資源は、保有能力が当初わずかばかりでも、育成訓練や経験蓄積によって力を伸ばしていく可能性を有しています。成長する人材は、放っておいても成長します。しかし、人材の能力は「等しく」変化していくわけではない(放っておいたら、退化する者もいます)。つまり人材は、能力が多様に変化していく経営資源なので、その状況を常に把握していてこそ「リソース管理」の実効性が高められていくわけです。病院など医療機関は多職種による統合組織なので、その全ての職種に渡る人材の保有能力を把握していなければなりません。

 医療従事者の職業能力を測るための、様々な尺度や枠組みが検討されてきています。その代表例は、看護師の「キャリアラダー」(例えば、日本看護協会「クリニカルラダー」:こちら)でしょう。看護師に必要な能力レベルを高低で複数段階に分け、各段階の実践的かつ具体的な能力を発揮機会別に文書化したものです。非常に練り込まれた、汎用性のある良い尺度だと思いますが、問題は「これを、自分の現場の人的リソース管理に使えるか否か?」です。結論から言うと、実際はちょっと使い難くて、結局はラダーに明記されたチェックポイントを使い客観的に評価するのではなく、管理者自身が現場で感じる印象評価で決まってしまう。人材の評価は既に管理者の心の中で決まっていて、その数値化可能な後付け評価としてラダーが使われるパターン。なぜ、そうなってしまうのか。その「ラダー」が悪いのではありません。それは他の人が作った「ラダー」で、自らが自らの組織の人材の現状を前提に作ったものではないからです。

 「多職種に渡るクリニカルラダーみたいなものを、ましてや自分達で作るなんて、とてもとても‥」。例えば自院で、看護職の独自ラダーを作ろうとしても、看護師自身は忙しい、人事担当の事務職は現場感覚がない。「そう言えば病院機能評価の時に、他院のものをコピーさせてもらったっけ‥」。こんな感じでやり過ごされ、何時まで経っても整備できない。つまり、リソース管理ができない。人事担当を専門の外部研修に送ろうか‥、医療コンサルタントに頼もうか‥、企業の人事経験者を中途採用してみようか‥。いずれも病院の「管理部門あるある」ですが、いずれもダメです。結局は、他の人が作った枠組みを受け容れることになってしまうからです。

 さて、その「クリニカルラダーみたいなもの」を、人事労務管理論では「職務職能表」と言います。早速、Googleで「厚生労働省_職務職能表」と検索してみて下さい。「中央職業能力開発協会_職務職能表」だともっと詳しいサイトがヒットします。中央職業能力開発協会とは、厚生労働省職業能力開発局が設置した認可団体で、職業能力開発に関する様々なデータを集め、公開しています。それらが開設しているサイトで「職業能力評価基準」という概念で展開されているのが、ここで言う「職務職能表」です。これらは、簡単に言えば、業種の職種ごとに「新人・一人前・エキスパート・管理職」など人材を能力・職務別にざっくり分けて、それぞれの保有能力を言語化し、職務(医療で言えばケア業務、調整業務、管理業務など)ごとに整理したものです。検索で提示されたサイトを適当にクリックして行けば、様々な産業の様々な職種における「能力別保有能力の職務記述(能力の内容を言語化した文章)」を整理した表(枠組み)が大量に出てくると思います。これらは厚生労働省が予算を投入して作成した表ですから、もちろんどれだけ活用しても無料です。ちょっとしたアンケートに答えるだけで、全ての表がダウンロードできます。

 後は、見よう見まねでOK。自院の現状、自院スタッフのレベルに合わせて、ダウンロードしたファイルをコピペしながら自作してみること。専門研修や経営コンサルタントが作るフレームと比較してしまったら、すごく見劣りするようなものしか作れないかもしれません。でも、それで良いんです。何よりも、実際に使う人間が、実際に働いている人間を想定して作る「能力評価表(職務職能表)」。これこそ「リソース管理」を実行するための、必需品なのです。

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