「若いドクターなら知ってると思いますが、自分は良く解りません」
大学教育における「ポートフォリオ」を一言で説明すると、「教育成果の記録をまとめたもの」となります。ノート・プリント・メモ・レポートの内容、実験・研修・試験の結果を、学生一人一人が分野ごとに整理したものです。最後の試験結果はあくまでも「教育成果のごく一部」に過ぎません。その学生の「学び」はいろいろ書き込まれたノートをはじめ、様々な文書の記録の中にあります。かつては、それらを全部まとめようとするとバッサバサの分厚く重い「バインダー」にファイリングするのが普通だったのでエラく大変でしたが、PC性能やWeb環境の向上に伴い、「黒板の板書やノートはスマホで撮ってクラウドに上げて、実験データもファイルにして上げて友達と共有して、後でレポートにまとめてファイル名を‥」など記録や保存が飛躍的に電子データ化し扱いが容易になったので、これらを電子情報として記録する「eポートフォリオ」が2010年頃から急速に普及し始めました。大学医学部における教育現場の変化も、概ねその時期です。なので冒頭の「若いドクターなら知ってる」というのは、「2010年代に大学・大学院教育を受けた」ぐらいの若いドクター、と言えるでしょう。
「eポートフォリオ」なんて言うと未来的な響きがありますが、早い話、紙のカルテが電カルになったようなものです。ポートフォリオ(portfolio)という英単語の意味は「紙挟み」(「クリアファイル」のようなもの)、まさしく紙カルテです。今の医療現場では、患者の病状観察、与薬経緯、検査結果、指導内容、担当所見などが全て電カルに入っています。正直なところ、病院の電カルは大学のeポートフォリオの上を行っていると思います。ただし、記録をとる対象と使用目的が異なります。電カルは「患者の」、eポートフォリオは「学生の」変化の記録です。例えば今後、病院で「職員の」保有資格、仕事内容、処理速度、ミス頻度、最終成果などの変化が電カルのレベルで記録され、それが人事考課に反映されて、成果主義として人事管理に運用されたとしたら、病院は大学を完全に凌駕するでしょう。病院理事長の皆さん、どうでしょうか? こういうデータの記録分析による人事管理、やってみませんか? 2011年の米コロンビア映画、ブラッドピット主演の『マネーボール』は大リーグの弱小球団を、こうした分析手法で立て直した物語です。このモデルはオークランドアスレチックスのGMビリービーンで、2000年代前半に「セイバーメトリクス」という手法を導入し、年俸の安い若手主体の弱小球団をプレーオフ常連球団へと大躍進させました。
企業人事においても、「ポートフォリオ」という概念は既に定着しています。例えば、企業が新規事業を立ち上げ、社内でプロジェクトチームを編成しようとする時など、人事は全社員に向け、プロジェクト計画の内容を告示するとともに「各自、ポートフォリオを提出せよ」と指示します。メンバー入りを希望する社員は、自分のポートフォリオに現在の保有能力、キャリア、これまでの実績、アイデアなどエビデンスを揃えて提出し、人事とプロジェクトリーダーが数あるポートフォリオの中から候補者を選び(書類選考)、社内オーディションを経て精鋭揃いのプロジェクトチームが始動する。その起点がポートフォリオとなるのです。
なお、経営学のポートフォリオについては、こちらをご覧下さい。
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